「もったいない」という弱点

岩田教授の動画で言及されてた、どうにか口を作って船に乗せてくれた厚労省の人、高山医師だったのね。この高山医師の投稿を読むと、互いにプロとしてベストを尽くしてることがわかる。悪いやつぁいない。

オレが岩田教授の動画を見て思ったのは、最初からちゃんと専門家にやらせろよ、です。橋本岳が「総指揮の自分は承知してなかった」と岩田教授の乗船を批判してたけど、そういうお行儀論でプロを批判できると思うのは間違いなんだよね。どうして最初から岩田教授に指導を仰がなかったんだ、という話でしかない。彼はプロとしてできる仕事をしただけなのだ。

ダイヤモンド・プリンセスの隔離は最初から重要事項だったし、重要性はどんどん上がった。仕切り直して最大限のマトモな体制を築くべきタイミングはあったように思う。

「最初に採用した代用品を豪華にすることしかできない」という日本の組織の悪い癖がここでも出てるんじゃないですか。誰が悪いではない。直すならこの部分だ。

ちなみに、市場と対話して稼いでる人たちがこれに関してよく言うのは、サンクコストという言葉だ。これは英語のsunk costで、sunkはsinkの過去形、つまりサンクコストは「すでに沈んだ費用」ということになる。具体的には、すでに支払ってあり戻ってくることがないコストのことだ。

これがどうして大事なのか。金融商品に引き寄せて説明すると、「あなたが持っている、あるいはこれから買おうとする株は、これからどのような価格になるかという見込みだけで判断しなければならない」となる。

つまり、過去にいくらで買ったかとか、そのときにどんな気持ちだったかとか、どんな経緯で買ったかとかを考えてはならず、将来騰がるなら買い、下がるなら売らなければならない、ということだ。

これは人間には非常に難しい。過去に100万円で買い、いま50万しかしない株には100万円のサンクコストが含まれている。これを売るのか、それとも買い増すのか、買い増した場合にいくらで売るのかは、100万円のことを忘れて判断するのが合理的だ。しかし、人間の脳には、コストを払って入手したものに価値を見出してしまうバイアスがあるのである。かくして、50万円から下がる見込みがあったときに売れる人はほとんどいないし、騰がる見込みがあって買い増し、実際に騰ったときに、たとえば60万円で売れる人はまったくいない。やるべきことは常に、現時点から騰がるか下がるかを考えて売買することだけなのに。

日本の組織って、本当に仕切り直しができないんだけど、これは心理的サンクコストが巨大で、マネージメントが合理的な判断をまったくできないためだ。合理的な判断で仕切り直したときの現場の恨み節が強烈すぎるというのもあるし、そもそもマネージメントが合理的に判断する慣習がないというのもある。

仕切り直しができないと、「小さく始めたプロトタイプを究極的な目標に向けて作り直しながら成長する」ということができない。日本のシステム、特に大組織が作ったそれには、「はじめに導入した模造品が巨大かつ非効率になっていく」という宿痾がある。最近の良い例は消費税だ。消費税は欧州型の付加価値税を元に作られたが、インボイスを最初から導入せずに小規模事業者への特例措置を組み込み、そうしたすべてを保持したままで軽減税率まで組み込んだため、いまや費用のかかる、現場の負担の巨大なシステムになっている。

「慣れたやり方を絶対に捨てない」は、目先の効率低下を避け、限られた資源で一定の成果を出すには非常に有効なやり方だ。

だけど、全体最適に向けて常に浮動することをやめれば、局所最適から絶対に逃れられない。その時点より抜本的に良くなることはないし、後から来た、全体最適の見えてる競合に必ず負けるのである。

それではどうすればよいだろうか。解決は簡単だ。いつも遠い目標を視野に入れ、目先の非効率を許すことである。

ただこれ、できますか?「有能な日本人」ほど、目先の仕事で成果を出すことだけを目指してしまうものだ。

リーダーシップって、こういうところで使うものだと思うんだよね。