オール電化オフグリッドでエネルギー無料の生活を実現!

…したわけではないんだけど、発電して遊んでたら、そういう未来がちらっと見えたので書いておく。

ソーラーパネルの電気の活用のため、マイクログリッドタイインバータとオフグリッドインバータを併用している。グリッドタイインバータは既存のAC出力に電力を重畳させるインバータ、オフグリッドインバータは自前で発振してAC出力を作るインバータである。

違いはこれだけではない。グリッドタイインバータは既存の100Vコンセントに接続して電気を流し込む機械であり、電気が余っても出力調整などせず、いつでも全開(だから逆潮流防止にスイッチ等が必要になる)。これに対し、オフグリッドインバータは負荷の分しか発電しない。

それを実感させられたのが今日の経験だ。大きなソーラーパネルの付いたオフグリッドインバータに接続された電子レンジとトースターを同時に使ったタイミングで、バッテリーへの充電が起きたところ、ソーラーパネルが今まで見たこともない3.27kWという出力を叩き出したのだ。

これまで1.2kWも出れば「すごい!」と思っていたのだが、どうやら三味線を弾かれていたようだ。インバータにWiFi接続することで表示されるグラフを見ても、発電量(赤)は朝のバッテリー充電が終わったあとは需要(緑)に合わせてしか発電できないのがよく判る。

この強烈な発電能力を活かすには、というか捨てないためには、電気をどんどん使って別の形のエネルギーに、あるいはもっと一般性高く、「別の価値」に変換する必要がある。

それで自分はトースターで調理したりコーヒーを焙煎したり右往左往した挙げ句、電子レンジでお湯を沸かすまでやった。まあ要するに、出力の凄さを目の辺りにして落ち着きがなくなっていた。

でも、浮かれるのも無理はないと思う。「エネルギーがタダ」という状態はすごく楽しい。アメリカの初期の原発推進派は "Too cheap to meter(測るには安すぎる)" と言っていたらしいが、このはしゃいだ言い方の感覚がよく分かる。湯水のように使っても使っても使い切れない。

現在ウチのシステムは仮設状態で商用電力も使っているため、この「使い切れない!」は擬似的だが、おそらく本接続後も完全には使い切れない。電気自動車などの追加を見込んだ容量になっているからだ。

この多すぎるほどの発電・蓄電容量に対して機器コストは非常に安い。これまでの電力使用量を考えると、投資の回収期間は理論的には3年程度。実際にやったさまざまな非効率を勘案しても、おそらく5年と思われる。利回りなんと20%である(単利)。

しかもソーラーパネルやバッテリーは今後も急速に安くなっていく。90年代にPC自作趣味があった人は、雑誌広告を見てメモリやハードディスクの価格低下にワクワクする日常というのを覚えていると思うが、パネルやバッテリーにはこれに近い価格低下が起きているのだ。これはOur World in Dataにあったソーラーパネル価格のグラフ

リチウムイオンバッテリー価格は2022年に史上初めて上昇したが、これはリチウム価格の一時的なスパイクによるもので、現在は収まっている。そしてLiFePO4電池、さらにはナトリウム電池と、容量あたり、1充放電あたりの価格(サイクルコスト)がめちゃめちゃに安い電池が次々に出て、実質コストはどんどん下がっている。ナトリウム電池などは材料の縛りがまったくないので、あとは学習率(生産経験と規模の拡大による効率向上)だけで驚くほど安くなるはず。

今ですら「お得な投資」なのが、さらに安価になる。そうなれば、これまでのFITなんか問題にならないほど流行るだろう。もともとFITというのは産業の立ち上がりを助けるための仕組みであり、本番はこれからなのだ。機器コストが安くなれば工事費が多くかかっても回収できるため、これまで横目で見ていた人もパネルを欲しがる。東京などは補助金も厚い。逆に化石燃料主体の既存電力会社の電気料金は上がっていく。やらなきゃ損である。

そして同じ工事をするなら、みんな太陽電池を載せられるだけ載せるだろう。するとどうなるか。昼間の電気が猛烈に余るようになる。現在でも土日昼間のJPEXスポット価格は0円に近い。これが常態化するわけだ。

こうなると、余ってる電気を多少効率が悪くても別の価値に変えられる者が得をする。バッテリーに溜めておいて価格の高いときに放出してもいいし、水素に替えて合成燃料にしてもいい。

家庭レベルではヒートポンプ給湯(エコキュート)も蓄電用バッテリーも使うようになるだろう。EVにも充電したい。(なにしろバッテリーが安くなるのだから、EVの普及もあっという間だろう。電池技術に関していまや世界一は中国であり、その先端を行くBYDのシーガルは1充電で400キロ走れて140万円だ。)

電気が十分に溜められるようになれば、みんな思うだろう。「こんなに電気が余ってるなら、もう電力会社の電線が繋がってる必要ってないんじゃないの?」と。*1

かくして、「オール電化&オフグリッドで電気代もガス代もガソリン代も要らない生活!」というのが将来の「あたりまえ」になる。

…これが今日オレが見てきた未来です。田園地帯から普及し、都会も次第にソーラーパネルに覆われていくはず。

ランニングコストとして定常的に出ていくお金が減り、比較的軽い資本性の負担だけになることで、運営(生活)は楽になる。エネルギーは余ってて使い放題。ユートピアではないですか。

むかしむかしの2015年に深圳のMaker Faireに行ったとき、同じ宿に泊った野尻抱介さんと「社会問題のほとんどはエネルギー問題であり、エネルギーが無料ならだいたい解決する」という話で盛り上がったことがあるが(野尻さんのまとめ)、個人レベルでは10年経たずに実現したなあ…と思うと感慨深い。

*1:もちろん、いま急いで既設の電線まで切る必要はない。LOOOPでんきのような基本料金ゼロ円の電力会社と契約し、確実なバックアップとして確保しておけばいいのだ。とはいえ伝統的な巨大電力会社から電気を買う人は非常に少なくなるだろう。