ソーラーパネルを設置する(かどうか考える)際には見積もるべき事柄がいろいろあるけど、こういう長寿命のものの場合、買う人が「初心者ではない」ことはむしろ稀だ。だから何を見積もればよいのかもイマイチわからないし、シミュレーションのデータも持ってないし、業者の見積もりがどのくらい正しいのかを判定する基準も持ってないのが普通だろう。
興味はあるけど身近に経験者がいない人にオススメなのは、自分で安いパネルとマイクロインバータを買ってきてプラグインソーラーをやってみることだ。
何かをもっとも素早く理解する方法は身銭を切る事だと思う。それが最小限の投資でできて、しかも後からも無駄にならず、それどころか一番回収が容易なのがプラグインソーラーなのである。
プラグインソーラーの投資回収は容易だ。ソーラーの発電単価は火力発電のようにランニングコストに支配されるものではなく、メンテナンスコストも微小なので、けっきょく初期投資を総発電電力量で割ってやることで算出される。プラグインソーラーは蓄電コストも事務コストもかからないので、この割り算の分子がとても小さく済む。具体的には楽天とかで売ってるセット物のプラグインソーラーでも200Wで6万円くらいからあるし、同じような部品をAliexpressで買ってくれば半額だ。200Wのソーラーパネルは年間およそ200kWhの電力を発電するので、200x45=9000円くらいは回収してくれる。これなら数年で元が取れる。楽天の高いやつでも7年だ。
買ってきたら性能を見てみよう。まずは太陽に向け続けるとよい。日射量データと比較すれば、買ったパネルとインバータがどのくらいの性能のものか理解できる。
そして地域のその月の最適なパネル角で設置して数日間のデータを取れば、どのくらいの発電量が見込めるか見積もれるようになる。思ったより発電しないものなので、移り変わる天気でどのくらい発電量が動くかなどの感覚も身についてくる。
で。
ここでサラッと書いた「日射量データ」や「その月の最適なパネル角」という、たいへん貴重な情報が、なんと無料で調べられるのが国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のデータベース/ツール | NEDOページにある日射量データベースだ。
利用できるデータベースは月平均の日射量データを収録したMONSOLAと、毎時の気象データを収録したMETPVだ。現在公開されているのはウェブ版が2021年公開のMONSOLA-20とMETPV-20(統計期間はどちらも2010-2018年)、ダウンロード版(Windows用)がMONSOLA-11とMETPV-11だ。-20は日本全国50箇所で細かいデータを取り、全国を1kmメッシュで区切り、メッシュごとの推定データを掲載している。それぞれ平均年データ、多照年データ、寡照年データが作成されており、ソーラーパネル設置の際に知りたい気象データはだいたい網羅されている感じ。データの出どころ等は「NEDO 標準気象データベースの解説書」に書いてある。
ウェブ版の閲覧システムがこちら:
MONSOLA-20の使い方
まず見てほしいのがMONSOLA-20だ。使い方としては、まずは地図から自分の場所を選び、「この地点のグラフを表示」ボタンを押す。パネルを設置したい場所をまず選ぶのだ。
ここでは浦添城址の入っているメッシュ39272598を選ぼう。
画面が遷移して1月の日射量グラフが出る。最初は月指定になっており、グラフの各線は傾斜角30度における方位角別の日射量データだ。
左上のラジオボタンを「月指定」から「角度指定」に切り替えてみよう。グレイアウトしていた操作ができるようになる。グラフの形が大きく変わるのは、傾斜角ごとから月ごとに切り替わったためだ。
そして使えるようになった「角度指定データの表示種類」メニューの下半分の最初にある「最適傾斜角」を押してみよう。
各月における最適傾斜角(斜面を真南に向けた場合に最も多くの日射量が得られる角度)がいきなり出ちゃう! グラフの右の方には年平均での最適傾斜角と春夏秋冬季節ごとの最適傾斜角も表示されている。
ちなみに6月と7月が-8°と負の値になっているのは、夏至付近では日昇が・日没が真東・真西よりかなり北に寄るためで、2023年夏至の6月21日には日昇方位が63°11'06''(東北東67.5度よりちょっと北寄り)、日没方位が296°49'01''(西北西292.5°よりちょっと北寄り)となる。太陽が真東(90°)に来るのは10:37、真西に来るのは14:25だ。*1
METPV-20の使い方
あと気になるのは期待できる日射エネルギーだ。ソーラーパネルの定格は1kW/㎡の光で計測されているので、発電量が定格よりも少ないときに(ほとんどの場合は少ない)、どの程度のエネルギーでそれだけの電気が得られているか知りたいはず。こちらはMETPVデータベースで見ることができる。
METPV-20の方もメッシュで分けられているが、このメッシュは観測地点への振り分けに使われているだけで、先ほどの浦添城址を含むメッシュのデータを知りたければ那覇の観測所を選択すればよい。下は那覇を選択したところだ。「この地点のグラフを表示」をクリックする。
遷移した画面はこうなる。デフォルトでは那覇の平均年の1月1日の水平面での日射量グラフが示されている。
それでは3月10日を選び、さらに「日別」から「10日間」に切り替えてみよう。
3月の最適傾斜角は27度だったので、左上の「表示データ選択」を「斜面日射量」に。その2つ下の箱の中の「傾斜角指定」を27°にしてみよう。画面はこうなる。
グラフがまだゴチャゴチャしてるので、グラフ下の「方位角」のチェックボックスから「0度」以外を外す。
これでスッキリした。10日の日射量ピークは1.3MJ/㎡、この10日で一番少ないピークは11日の0.3MJ/㎡程度、一番多いのは12日の3.9MJ/㎡程度であることがわかる。これは1時間の積算エネルギーだ。
1J(ジュール)は1W(ワット)が1秒間続いたときのエネルギーなので、3600J = 1Whとなる。つまり3.6MJ = 1kWhだ。日射量の多い日は3.6MJを超えているので、沖縄の3月の晴天の正午付近なら定格出力に近い値が出るはずであることがわかる。
基本はこんなものだろう。公共のデータベースは税金で構築され、国民が利用するために公開されている。ぜひ活用してほしい。
*1:いまPyEphemで計算した。