永田式英文読解法というのがある。これ、もしかしたら別の名前が付いてるのではと思うほど画期的で、それゆえなんとなく紹介しづらかったんだけど、メソッド的には単純。英語長文の英単語をすべて日本語単語に置き換え、語順はそのまま、ひたすら読むのだ。
日本人が英語を読むと、単語と文法の両方が日本語と違うために頭の負荷が大きい。これがフランス人とかであれば、単語の5割以上がほぼ同じスペルなので、特徴的な文法事項を自動変換できるようになることで英語も大まかには使えるようになる。
日本人の場合は単語をひたすら覚えるみたいなのは得意な人が多いので、語順や発音からくる文法的な感覚が自動化されればそこそこの習得状態になれるんだけど、「文法を感覚に染み込ませて自動化しよう」と思う人はまずいない。文法も意識的な知識として覚えて「単語を日本語に直す」と「英文法を適用する」の2つのタスクを行ったり来たりしてしまうので、脳が慣れない。実用がなかなかに遠い。
で、永田式。上記のとおりに単語だけ日本語に置き換えちゃってひたすら長い文を読むようにすると、単語変換タスクの重みを除去して高速で読むために、脳が語順と意味の接続を覚え始める。
オレはこれ、かなり画期的な方法だと思うんだけど、紹介しても誰もやらない。英語のできない人は文法的な部分が感覚化するという感覚を持っていないからこそ、感覚化の効果が理解できないのだ。あとハタから見た景色的に「日本語学習初心者が覚えた単語を並べてどうにか喋ってる」みたいになって馬鹿馬鹿しげだとか、単語を日本語に置き換える手間が馬鹿にならないというのがあるかもしれない(たぶん本家ではいろいろ対策してると思うので、興味のある人はぐぐってください。)
そんで前置きが長くなったんだけど、いまこの効果のうまい描写を思いついたんで書いておく。これ、子供に補助輪なしで自転車が乗れるようにするときに有効な方法と同じなのだ。
その方法とは、補助輪を外すときに、同時にペダルを外すこと。
補助輪無しの自転車に乗れるようになる肝は、「バランスを取る」と「ペダルで漕ぐ」という2つのスキルを同時に使えるようになることだ。
昔ながらの練習法だと、後ろを持ってあげてペダルを漕がせ、勢いがついたら離す、みたいなことをする。これだと1日がかりで乗れれば良い方で、しばしば何日もかかり、挫折して自転車に苦手意識を持つ子すらいる。
子供ですら習得にこれほど時間がかかるのは、補助輪無しの自転車は2つのタスクを同時にこなせないと乗れるようにならないのに、2つ目のタスクの習得が難しいからだ。
補助輪がついていれば漕ぐだけで進んだ。補助輪がないならバランスを取らなければならないのは頭ではわかる。でも、それをどうやるのか想像するのは難しい。なので、とりあえず「漕ぐ」という従来からの動作を続けようとする。しかし漕げばバランスが崩れやすくなってしまう。補助輪を外したばかりの子にそんなことはわからないし、バランスを取る方法の多様さや、ペダルを踏むと加速して(あるいは足を押し付ける力によって)バランスが変わることも想像できない。それらは一度に襲いかかってくる。
つまり補助輪無しの自転車に乗れない人にとって、新しい・やらねばいけないと予想できない・予想してても対応できない・要するにいきなりやってうまくいくはずがないのは、「バランスを取る」の方だ。このスキルの習得に集中させたほうがいい。
ペダルを外してしまうことで、ペダルを漕ぐ、というタスクは消滅する。足で蹴って進めば余計な外乱なしにバランスを取ることに集中するので、普通の子供なら数分でバランスが取れるようになり、進むも曲がるも自由になる。
バランスを取ることを覚えれば、あとはペダルを付けて練習するだけだ。この経路、信じられないほど習得が速い。特に運動神経に優れてるわけではない子供でも1日(というか1時間くらい)で補助輪無しの自転車が楽しめるようになる。
英語の習得も同じだ。わからない人は文法が感覚化されておらず、次に来る単語の種別が想像できない。単語の解釈というタスクと、文法の解釈というタスクを同時に課せられ、むしろ単語に気を取られることで文法がおろそかになる。これでは読めるようにはならないよ。
そういうわけで、「長文の単語を日本語化したうえで語順はそのまま読み続ける」という方法はとても有効。英語だけでなく他の言語を習得する際にも使えそうである。英語はとびきり変というか、特例の多い文法なんで特にメチャメチャ有効だけど、他の言語、例えば中国語でも行けそうな気がする。
そして考えてみると、日本じゃ中国語の習得にこれを昔からやってるのだ。すなわち漢文素読である。
あれは返点を付けずに、しかし漢字を日本語として解釈しながら上から下に読んでいく。すなわち永田式英文解釈法と完全に同じだ。漢字だから単語の訳がなんとなくわかる、という違いがあるだけ。
というわけで、永田式オススメですよ。漢文素読のように英語を学ぼう! 読書百遍意自通!!