翻訳のホンは翻すのホンである

さいきん和訳に擬音語・擬態語を取り入れるよう意識してる。

擬音語・擬態語を使うと、1つの英文の塊であらわされるくらいの概念を1語で表現できる。ちょっと複雑な概念でも非常に楽に書けるし、日本語らしい簡潔な表現が作れる。

また一般的な擬音語・擬態語に加えて、日本語化されたカタカナ語も擬態語の一種と捉えることができる(この話はいずれ書く)。このへんも併せると表現が非常に楽になる。便利なスイスアーミーナイフを手に入れた感じ。

もちろん、簡潔になりすぎれば不適切なことも少なくない。英文でベタベタ書いてあった文が1語になるので、適用された文とされなかった文で長さが大きく変わる。英語と日本語では語順が違うので文同士の繋がりが難しくなることがあるんだけど、長さまで変わるとなると、文から受けとるものが大きく変わってしまうことがある。あと使いすぎるとバカに見える。

とはいうものの基本的に、擬音語・擬態語というのは日本語の表現にとって非常に便利なものである。

ところが和文英訳になると、これがそのまま地獄になるようだ。

 
 
 
 
 
 
兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
問題は擬音と擬態語です。例えば「むにゅ」(柔らかい)と「ぐちゃ」(液体音)ですが、前者は擬態語(柔らかには音はありません)ですが、後者は擬音(「液体が生む音を連想させている」)なので語源がことなります。しかし日本の擬音・擬態語のすごいのはこれらを組み合わせることができるのです。
 
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兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
「むにゅ」(柔らかい)+「ぐちゃ」(液体音)で「ぬちゃ」(粘性の高い接触音)が出来ました。 「むにゅ」(柔らかい)と「にゃー」(ねこの鳴き声)を結びつけるものは特にありません。しかし女子が「にゅ」と可愛らしく言うと「温和に感じで反応している」となります。
 
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兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
「たわわ」という単語も面白いです。たわわは元々「たわむ(撓む)」から来たのですが、「果物が大きく実り、枝が曲がった状態」なのが「果実が大きい」となり、これを巨乳になぞらえていますが、比村さんの努力結果、「ふくよかさ」という擬態語に進化しています。
 
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兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
このように「たわわ」なるシニフィアン(記号表現)は「枝がしなるくらい重さ」なるシニフィエ「記号内容」を描くだけではなく、「やわらかい」「大きい」「魅力的」という意味合いも含むようになりました。記号表現と記号内容の一方性がある意味、双方向で働くようになったのがわかるでしょうか。
 
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兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
この双方向性についてはその後のボードリヤールは「受け手側にとって記号自体に実態を見出して、虚像が真実となる(要約)」とかバルトは「記号自体により記号内容を押し広げる含意や連想、暗示を内包できる(要約)」としました。記号は凝り固まったものではなく絶えず変容・再構築されているのです。
 
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兼光ダニエル真
 
@dankanemitsu
 
さて豊かなに広がる擬態語と擬音の世界(日本のマンガ)を原則として擬態語が存在せず、擬音のバリエーションが少ない言語(英語)に翻訳するとなるどうなるか。これは本当に大変。取り組み方は色々ありますが、まずマンガの擬音・擬態語は独自の言語を形成しているのを理解するのが大事だと思います。 

擬音語・擬態語に特有の精緻な論理がある。ということは、日本語を英語で完全に表現するには、擬音語・擬態語が持つ論理・内容を訳者がいったん全部把握して言語化し、それを英文にする必要があるということになる。つまり、擬音語擬態語論理→日本語→英語という、二重の翻訳をする必要がある。

また、漫画のテンポを作るとなると、もとの日本語の長さから大きく逸脱せず、前後のつながりもきれいに収めないといけない。

これをくどくどしい英語でやるのは至難の業で、むしろ内容を認識した上で、英語頭になって書き下すほうが楽に適切な表現になるだろう。これには相当な英語力が必要だと思う。すごくたいへん。英語と日本語は斯様に離れている。

和訳の際には武器が増えるので直接の大変さはないのだけど、擬音語擬態語を取り入れるようにしてから、テンポの問題や語順問題が意識に上ることが増えた。

たぶん擬音語擬態語問題は、すべてを表面化させるんだよね。

いろいろ考えることが増えて、パンドラの箱を開けてしまった感もあり、理解が次の段階に進んでいる感もあり。おもしろすぎて人生が短い。