『経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』。
寝床に持ち込んで何ヶ月もかかったけど、ようやく主要部を読み終えた。まだメンバーたちのその後を描いた章が途中ながら、とりあえずの感想。
面白いとこまでたどり着くまで長いこの本だが、「日本はなんだってあんなキングコングみたいなのに掛かっていったんだ?」という根本的な疑問に対し、これまでよく見られた「意思決定者がちょっとおかしい人たちだった」という説明を回避し、現代人の腑に落ちる仮説を示してて、めっちゃ面白い。
「オレやあなたが当時の御前会議のメンバーだったとして、正気のままで日米開戦を選択する余地は十分ある」というのは衝撃的。
当時の人達だってボンクラじゃないんだよね。というか、十分に優秀だった。にもかかわらず、あれを選択してしまったのはなぜか。この本の仮説、行動経済学的な誤謬によるものである、はかなり良い。当時の民衆が十分にボンクラで熱狂してたというのは外部要因としてデカいけど、確実なジリ貧と可能性が極めて大きなドカ貧(わずかな可能性で現状維持または拡大)を提示されたとき、確実なジリ貧で持久するという選択ができる日本人は、すごく少ないと思う。
まあ、オレが御前会議に出てたとしたら、当時の情報でも日米開戦にはやっぱり頑固に反対してたと思う(そして右翼に殺されていただろう)。でもそれは、オレが「一縷の望みに賭ける」に成功体験がないこと、そうした賭けのニオイがすると選択肢を可能な限り遠くから眺め直す癖があることによるから、それはオレの特殊事情。
オレみたいなヘンな人間が当時の日本の意思決定に関わる部分に関係する手段はなかったので(いまもないので)、やっぱり日米開戦はどうやっても避けられなかったものと思われる…いや、唯一の道として、オレが天皇だったら開戦は回避されていたかもしれないw
ヨタはさておき、この本、当時の人達が非合理的だから不合理な選択をしたという戦後のフォークロアを、細い資料を丁寧に拾って片っ端から否定してるところがとてもよい。優れた史学者の仕事である。
経済学者を広く集めた陸軍のシンクタンク「秋丸機関」(左翼と目され危険視されてた経済学者で戦後の高度成長の基礎をなす傾斜生産の立案など大活躍した有澤廣巳を主要メンバーに据えていた!)が出していた日米英独の経済力認識も、日米開戦は経済面から絶望的、という結論すらも当時の常識であり、これらが開戦という国策に反していたから握りつぶされた、みたいな話は戦後に作られたものだという。
当時の人たちも彼我の生産力の差を常識としてちゃんと認識し、それでも最適解として開戦を選択してる。
しかしなお、秋丸機関は開戦を回避し得る情報の提供者として機能しうる数少ない集団だった。彼らの失敗とは…!
という本です。おもしろいから読むといいよ。
開戦回避に使えたかも、と提案されてる手段は現代的で、当時の真面目な人たちにはだいぶ難しい感じはある。
ここにもオレ様が必要だな、と思った次第である(おい