西和彦『反省記』

西和彦が『反省記』なる本を出してたことを知ったので早速買ってきた。これ、コンピュータ史のミッシングリンクがはまっていく前半も、無茶苦茶になっていくアスキーの様子が彼の悪行含めてガンガン描かれてる後半もたいへん興味深く、一気に読んだ。

西和彦アスキー(月刊ASCII)と工学社(I/O)の両方を創業し、日本の初期のパソコンブーム(8ビット時代)に参入した多数のメーカーのパソコンのほとんどすべてにマイクロソフトのBASICを入れ、一時は米Microsoft本社のボードメンバーで副社長だった伝説の人物である。

アスキーは70年代後半から2000年頃までの会社だが、初期からずっと日本のパソコン業界のオピニオンリーダー的な役割を務め、上場前後の一時は時代の寵児的な扱いでビジネス界隈にも広く知られた存在だった。

オレはアスキーの雑誌で育ったコンピュータ少年で、小学校の高学年からASCII誌を読んでいた。近所の大型電気店のパソコンコーナーは、壁際に一列に並べられた各社のパソコンが常時電源の入った状態で置かれており、背面には雑誌や書籍が積まれていて、オレらはパソコンをいじったり雑誌を読んだりしてた。というか、どんどんエスカレートして書籍を読みながらパソコンをいじったり、自分のカセットテープを持ってきてプログラムを交換したり、紙に下書きしてきたプログラムを入力したりして、めちゃめちゃ自由に好き放題遊んでいた。これが80年から81年くらい。

当時しょっちゅうつるんで遊んでた友人の吉岡太郎(Apple][ j+を自宅に持っていた。オレは彼の影響で中学の時にApple][+のコンパチ機を組むことになる)が「読むならASCII、買うならI/O」と言っていた通り、ASCIIは読み物が高踏的で、みずからも専門家だった編集者たちの技術者としての思いなどが満載の「手の届く大人の世界」で非常に刺激を受けた(TBNがすごく好きだった)。I/Oはプログラムのソースコードが、特にゲームのそれが解説とともに数多く載っている実践ベースの雑誌で、実用性が高かった。

西和彦は当時からアスキー出版の創業者として(ASCIIの誌面上では)有名だったが、その頃にはもうまったく表に出てこない存在になっており、伝説の人物だけど具体的には何が凄いのかまったくわからなかった。

当時の動向も含め、彼の目指していたところは本書でわかった。

オレについてはその後中高と進むにつれ、Login誌(これもアスキーの雑誌なのだ)に載ってた鹿野司『オールザットウルトラ科学』などの影響も受けてコンピュータ技術よりはサイエンスの方に舵を切るわけだけど、アスキーという会社については、やはり80年代前半のイメージが強い。

90年代に「妙にすごい会社」という扱いでビジネス界に受け入れられていく姿には、自然な成り行きとはいえ微妙な気持ちがあった。まただんだんマトモになっていくのでは、みたいなことを当時は考えていたわけだけど、なんか100%間違ってたみたいだねえ…なんてこともこの本でわかる。後半の西社長時代の話はだいぶひどい。

全体的に言えば、めちゃめちゃで面白い本でした。

当時に思い入れのある方、オレ同様のコンピュータ歴史オタクの方にはたいへんオススメです。

(小島編集チョって亡くなられてたんですね。あと、オレが一番好きだった82年頃の月刊ASCII宮崎編集長も一緒に会社を去ってたのを初めて知った)

 

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引っ越し以来出してないけど未だに持ってる月刊ASCII


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