Amazonに秋田純一博士の『揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ https://amzn.to/2EJ9T32 』のレビューを投稿しました。
当初Facebookに書いた感想を手直しして投稿したのですが、AmazonのレビューにはURLを書けないようで、いまのところ非公開にされやがってます。というわけで8月29日現在、こっちが完全版です:
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集積回路のプロの遊びっぷりを見よ!
二時間くらいで一気に読んでしまいました。
著者はニコニコ技術部の「LED点滅用のLSIをつくってLチカをやってみた https://www.nicovideo.jp/watch/sm23660093 」等で有名な金沢大学工学部教授の秋田純一博士です。専門は集積回路ですか、「無駄な抵抗コースター https://www.switch-science.com/catalog/2780/ 」等の遊びのほうが知られてる方。
この著者がコンピュータというものをどのように捉えているかを、ふだんの遊びを通じて垣間見せてくれます。自分はこれをある種のエッセイと捉えました。
揚げたり炙ったりは4章と5章に掲載されてます。
「揚げる」はハンダを溶かして基板からチップを外すプロセスです。ハンダは200℃ちょいで溶けるので、ちょっと熱しすぎの天ぷら油でチップが外れるというコロンブスの卵!
「炙る」はバーナーでチップのパッケージを炭化して中身を取り出すプロセスです。プラスチックパッケージをこうやってキレイに壊せるとは知りませんでした。
チップの中身を取り出して何をするかというと、同じシリーズのチップの世代違いとか(写真はATMega328Pと328PBの比較のとこです)、メーカー品と偽物チップとかを比較する。具体的な方法としては顕微鏡下での計測とデータシート調査、考察です。公開情報と実物からこれほどのことがわかるとは…。
こういう面白さは、実際にやってみた人にしか見えないものだったし、やり方もノウハウに満ちています。道具はごく安く手に入るものですが、知識に基づく試行錯誤がなければ手の届かないものです。それが惜しげなく公開されてます。
この実地調査は上でも書いたように4章と5章、本文150ページのうちの50ページくらい。
残りの部分は何をやっているかといえば、コンピュータという存在に対する"Powers of Ten"です。これは10秒ごとに10倍の距離を遠ざかって宇宙全体を見る/近づいて原子レベルまで拡大していく有名な動画です。子供の頃に科学館の類で見たことがある人も多いと思う。
参考: Powers of Ten 日本語吹き替え付き
本書でやってるのは、コンピュータ本体からチップ〜ロジック回路〜半導体〜ソフトウエア〜ビジネスといった具合に、巨視から微視に、また微視から巨視に、行ったり来たりズームして、総合的にコンピュータを理解しようという試みです。
それもサワリだけ書いてあるわけじゃなく、巨視的にはムーアの法則のきちんとした理解、微視的な方はアセンブラの命令が回路的にはどのように実行されるか順を追って解説してたりしてます。しかも難しくありません。まさにプロの犯行ですね…。
コンピュータに限らず、複雑なものを抽象化してブラックボックス化して使うということを我々は日常的に大々的にやっています。ところが抽象化には必ず漏れがあり、漏れたとこから破綻する。
数学では抽象化は完全に行われますが、実際の物理現象の世界ではだいたい極端な条件で破綻が起きます。なにが極端であるかは中身を知らなければわからない。それが自分でできるようになる視点が本書には詰まっています。
技術的なことに興味があれば、本書と同様の動機を必ず持ってるものです(子供の時の分解癖とか)。でも、これだけ突き詰めて細部を知った挙げ句に、これほどざっくり書ける人は他には居ないのではないでしょうか。
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