『本好きの下剋上』

アニメ版を少し見た。「このラノベがすごい」で2年連続1位の作品がアニメ化!との触れ込みだけど、ぜんぜん面白くない。現地事情にリアリティがゼロな異世界無双モノのテーマが本になっただけ、という感じ。

でも、こんなレベルのものが本当に2年連続1位になるの?と気になった。Kindle Unlimitedなら10冊くらい読めるらしいけど、Amazonサブスクリプションは嫌いな芸人を全面に出した広告を長々とやられたのですっかり嫌いになっていて、あまりやる気がない。

ところが昨日、Kindle Unlimitedが3ヶ月99円で使えるキャンペーンをやっているのを知る( https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/hz/bookshelf/… 対象者は表示される)。99円って「タダ」って意味だよね。3ヶ月タダならいいか~、と登録。

で、まず読みはじめたのがこれなんですが…すごい。一読巻を措く能わず、という感じで、あっという間に1冊読んだ。アニメで気になってた部分が、むしろすごくちゃんとしてた!

オレが気になってた部分は、「フィクションなりのリアリティ」と「ペース」だったんだけど、これはむしろ原作がすごくよくできてた部分だった。

まずリアリティ。中世後期のたぶん北ドイツの城塞都市が舞台ということで現代人が耐えられそうにない臭気、衛生、その他もろもろが、原作だと延々と描写されてるし、実際に耐えられてない。リアルw

また、価値基準がマトモ。現代知識で昔に戻ってうまくやる的な話でだいたいおかしいのが材料の価値で、特に生活費と木材と鉄器。安すぎるんだよね。ちゃんと生活はカツカツで、材料は貴重品扱いされてる。油も猛烈に貴重品だったりする。アニメだとあっさりシャンプーそのものを作っちゃうんだけど、苛性ソーダとか手に入らんやろ!アホか!と思ってたら、原作だとちゃんと手に入らないw 納得できる程度の代用品っぷりに、現地の特殊な材料で補正して、どうにか作ってる。(ここは既に流し見になってたのでホントは原作通りかも?原作も代用品にしては効果が大きすぎるんだよな。)他にも、そういう性質の材料なら現地の人が利用してないわけないだろ、みたいなのも色々あって、アニメだとモロすぎて鼻につく感じだったけど、原作だとうまいこと消してる。

ペースもアニメはダルダルで、わざとらしい描写が続く退屈さがひどかったんだけど、それは原作でリアリティを出すための心理描写や背景描写に使われている時間だった。原作は面倒めの描写が続くのに、配置が適切でどんどん読めるんだよね。すごい文章力。アニメが再現できてない部分が多い。

まあ、アニメにはアニメの事情があるのかもしれない。原作みたいに「におい立つような」不潔さと野蛮さ(しかしそこはかなり文明的なのだ、現地的な価値では。)の中に投げ込むと視聴者がついてこないとか。

しかし、それが出来なきゃ「現地を単なる無知蒙昧扱いした現代知識無双」になっちゃうんだよね。ほんと退屈になる。

あとオレがこの手のフィクションでいつも気になる非現実性は(というか、現代の普通との激しいギャップは)「命の重さ」なんだけど、それについても、なんとなく期待していいような気がする。

たぶん10冊はすぐ読むな。

 

12/5 追記

15冊分ほど瞬時に読んだ。
著者の香月美夜さん、ページターナーな筆力と分量のすごさが現代の栗本薫って感じ。

 

12/14 追記

ついに読み終わった! すべてを投げ出してずーっと読み続けて半月かかった。縦書きPDFの最終ページ番号が11413。いったいどこまで続くのか、と思ったけど、ついに大団円。
これを一気に読ませる筆力、すべてが繋がり破綻しない構想力と記憶力!、少女漫画に近いファンタジーなんだけど、世界は本当にきちんと構築されてる。キャラクター造形もすごい。あたまおかしい。
長い物語を長い物語としてきちんと書けてて、大きな流れは揺るぎないんだけど結構びっくりする展開もたくさんあり、著者のおかしな部分が露呈するようなこともなく、ちゃんと完結。なんとも凄みがある。
こんな無茶苦茶な作家がいたんだ…という畏怖の念に打ちのめされながら、マラソンを走るような長さでした。堪能したわー。

書籍版は21巻までで第4部の終わりまでしか出ておらず、縦書きPDFだと最終第5部が7909ページからなので残り3500ページくらいある。全部で30冊ってとこですかね(あたまおかしい)