北斎

ジャン・カルロ・カルツァの『北斎』( http://amzn.to/2nMnRYR)を買ってきて読んだのでレビューを書きました。以下に転載。

北斎の全貌を知りたい人の基本書

葛飾北斎の研究は日本のほか、フランスをはじめとする欧州各国でも進められています。

英国の研究者の書籍を資料的に翻訳する際に北斎を扱った書籍を漁って回ったのですが、日本で出版されている北斎本の大部分は以下のように分類されるようです。

・有名な絵を表に出し、ちょっとした逸話を並べた

・または有名な絵を、世評を軸にテーマごとに切り取ったいわゆる「入門」書
北斎という存在に対する海外からの解釈の紹介
北斎漫画の分類と索引
・江戸風俗に絡めた独自解釈本

北斎に棚を一段以上割いている大型書店でも、書棚のほとんどがこのような書籍でした。困ったことに、

・わかっている仕事や行動を記述し、作品も見ることができる伝記型の基本書

というものは皆無なのです。

ただし本書を除いて。

この本はまさに時系列に北斎の人生を追っていくことができ、作品を追っていくことができ、それぞれに対する解説を読むことができるという基本書です。書いているのは研究者であり、根拠の乏しい解釈やけれん味も排除されてます。

図版は大きいし、手紙から見る当時の生活の様子などの研究も寄稿されており、多面的に捉えることもできます。

別冊太陽のムック「決定版」や、ソフィア文庫の大久保純一氏の仕事など、他にも読む価値のある本もなくはないのですが、どれも記述の省略、図版の不足、小ささなどが目につき、逆にこの本に載っていることで落ちているものというのが少なく、この本のサブセットだと感じました。

出版社がマイナーで図書館にもあまり入っていないようなので(沖縄県では皆無でした)、その意味でも手元に置く価値があると思います。

1万円は絶対的には高価ではありますが、大判のハードカバーでカラー500ページほどの分量があり、まともな研究者によるちゃんとした本であることまで考えると、1000円や2000円の本を何十冊も買うより価値があり、むしろお買い得だと感じました。

北斎の全貌をある程度の正確さで把握しようとすると、おそらくこれが最低限の分量になるのではないかと思われるのです。