バスのポテンシャルはなかなか大きい

懐疑的な人も多かった沖縄のほぼ全県バス無料乗り放題(9月いっぱいの水曜日曜)。オレも水曜に乗ってきましたが、まずは母集団拡大に一定の効果が得られていそうで慶賀の至り。

www.okinawatimes.co.jp

経済学的な側面でオレが面白いと思ったのは、このキャンペーンって効果(「バスに乗ってみる人数」)が増えても追加費用がなく、当初の宣伝費とバス会社への通常時収入への補填の他がほぼ不要なこと。

通常の取引では1単位の便益(売上、乗車、etc)の実現には一定の追加費用がかかる。たとえば食堂は材料がなければ売ることができず、これは1食を提供するたびにかかる費用となる。モノを売る商売はみんなこうだし、サービスの提供の場合なら人件費が変動費として加わりやすい。

ところがバスの無料化の場合、乗車数が増えても1人にかかる費用はゼロに近い。空荷と満車では燃料費が違うとか、遅れが出たので残業費が発生してるはずだとかの細かい費用はあるのだけど、1人あたりの固定的な追加費用がない。人が乗れば乗るほど宣伝効果という名の便益だけが増えていく。これは面白い側面。

そしてこの、一人あたりの追加費用が無に近いという性質は、バスという公共交通が最初から持ってるものだ。乗る人が増えれば増えるほど、固定費の頭割りが大部分である一人あたり費用が小さくなるということでもある。

いま沖縄のバスはかなり高く、中国に比べると8倍くらいの運賃だ。無料じゃないと乗らない人は多いと思う。では、運賃がどのくらい安ければ乗るだろうか。今回たくさんの人をバスに乗せて、あんがい速く移動できることを覚えてもらった。渋滞が無くなれば、さらに高速で予想可能な手段にもなりうるだろう。いくらで乗りますか?

オレはクルマを出すよりはっきり安いことが重要だと思ってる。辺土名まで往復6000円じゃぜんぜん乗る気がしないけど、ガソリン代の2000円より安ければ考える。1200円ならふつうに乗ると思った。つまり、現在の2割(1/5)くらいならしっかりした需要があると思う。

その実現費用は実は高くない。以前試算したことがあるんだけど、毎年の道路建設にかける費用よりはだいぶ少ない額(半分とか)で、路線バス事業の売上額がまかなえることがわかっている。

オレは完全無料というのはモラルハザードで濫用を招きやすいので名目的な運賃を取るべきだと思っているが、そこで乗りやすい額、つまり上記のようないまの1/5とか、もっと出して1/10の額でバスに乗れるように補助するのは、すごく妥当なミニマムアクセス確保だと考える。

そもそも道路を作っても交通強者しか使えません。交通弱者の移動手段をちゃんと整備しないのは不公平。半々で分けたらよいのではなかろうか。

採算性の呪縛を外せば十分なポテンシャルがあることは今回よくわかった。交通の最適化のためにお金を出すのは十分に合理的じゃないんですかね〜。


ところで見出し。「待ち時間が長くて大変だったけど、遠出は楽しい」って書けないもんかね。オレの感覚はこっちなんですけど。