若年層の投票率はホントに低いのか

選挙が近づいてきてからよく回ってくるグラフのひとつに、財団法人 明るい選挙推進協会というところが出している「年齢別投票率の推移」というグラフがあります。

このグラフは興味深いんですが、線で繋がった各年代の人々の中身は、選挙ごとにどんどん入れ替わってしまうという問題があります。
たとえばこのグラフによれば、昭和42年の第31回衆院議員選挙では66.69%の、平成21年8月の第45回では49.45%の20代が投票していますが、彼らは同じ人たちではありません。当たり前のことですが、昭和42年に20代だったのは昭和12年から22年に生まれた人たちで、彼らは平成21年には63歳から73歳になっています。
もちろん、ある年頃の人たちがどのように行動するか、という切り口も大事なものなので、このグラフに意味が無いとは思っていませんが、中身を一貫させたデータも見たい、と思いました。
しかしちょっと検索してみても、そのようなデータは見つかりませんでした。これはある程度はしかたのない事で、もともとの調査の目的自体が、その選挙での年代ごとの投票率を知りたい、というものであり、ある世代の投票率の変化を知りたくてやったものではなかった(推移をグラフにしたのは後付け)と推測できるからです。
元データも見当たりませんでした。せめてテキスト形式で落とせないかと思ったんですが、まったく見当たらない。いったいこれはどういう調査なんだろう…という疑問を抱きながら、上のグラフから数字を抽出し、2009年時点の年齢から逆算して、世代ごとの行動の変化を追ってみたのが次のグラフです。70代以上は80歳で切ってます:

このグラフからいくつか言えることがあります。オレが見て取ったのは:

  • 1990年代から2000年代前半にかけては全世代で投票率の低下が見られる
  • 1950年代までに生まれた人(1889-1959年生まれと分類した人)の投票率は70%以上で安定している
  • 以後世代が下がるに従い投票率は下がる傾向
  • それにしても70年代、80年代(1969-89)生まれの投票率は低すぎる!

といったことです。
若年層の投票率は低い低いと言われてましたが、これほど行動に差が生じているとは思いませんでした。70年代以降に生まれた人たちの間で、かなりはっきりとした「常識」の変化があるように思えます。それがどんなものか、オレにはちょっと思いつきません。一応69年生まれなんですけど。
若年層が投票しないで老人ばかりが投票するから政策が…といわれますが、これじゃあしょうがないよねえ。若年層を擁護したら多勢に無勢でひどい目に遭うのでは、と思われてもおかしくないという実感があります。
これほどハッキリと、生まれた年代で(世代で)投票率の差があるとは思ってませんでした。わりとショッキング。
そんなわけで「若年層の投票率はホントに低いの?」「すごく低いよ!」が結論です。歳を取れば投票率が上がるもんだと思ってたのでビックリしました。

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以下余談。
上のグラフを描く前に、まずは年代を等間隔に直したグラフを描いてみました。推進協会のグラフは横軸が「第XX回」の等間隔で、任期満了で4年の間隔がある場合も、途中で解散した場合も同じように扱っているからです。以下のようになりました:

グラフの形が不自然で目立つ部分があります。昭和54年(1979年)10月の第35回から翌55年6月の第36回にかけて、わずか8ヶ月の間に全世代で投票率が急上昇していることです。このときは68.01%から74.57%に6.5ポイント以上も上昇しています(http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/ より)。
この第36回はどんなことが起きたかというと…自民党内部のゴタゴタで不信任案が可決されてしまって解散、しかも選挙期間中に大平首相が急死し、自民党は一致団結、大勝利を収めたという選挙です。
79年ほど顕著ではありませんが、平成15年(2003年)11月の第43回から17年9月の第44回にかけても、短い間に投票率が59.86%から67.51%に急上昇しています。このときは小泉首相郵政民営化を争点に解散、やはり大勝利を収めています。
昔の印象では、自民党は固定票が強い、浮動票が投票に行くと負ける、と言われていたはずなんですが、衆議院の投票間隔が短くて投票率が急に上がった場合は結構勝ってるんですね。不安の多い時に勝ちやすいとか、いろいろ考えられる気がします。

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追記: とても興味深い分析エントリを教えて頂きました。ご興味ある方にはオススメです:
【案外少人数】『若い人が投票に行けば世の中変る』と言われるけど、本当に変るのか計算してみた【友達一人でおk】日本情報分析局