この記事。
はじめ読んだ時は「この人はAIに関するビジョナリーではあるんだけど、やっぱり技術開発というものをわかってないな。」と思った。前半で言われてる、事実を誤る事例のかなりの部分がGPT-4にはあんまり当てはまらない。「あーはいはいそれが危険と思われたこともあるよね」と思いながら読んだ。
ところが、後半のまるで陰謀論のような「民主主義への脅威」って話は重要だし、傾聴すべき意見であることに後から気がついた。AIがなぜ民主制を破壊しうるか、という大枠の考え方が正しいから。
どうして正しいか。機械化とは本質的に高速化を意味するからである。
たとえば、いまのtwitterには自民党botな人たちがいる。
こういうアカウント、いまのところ見分け方は簡単で、まったく同じ内容をコピーして一斉につぶやくので、検索一発でバレる。基本的には女性名で威勢のいいことを言ってるけど、まあ中身はどう考えても広告代理店のおっさんだよね。対象読者もおっさん。頭の弱いおっさんが偶然引っかかってフォローして影響されていく。
ところがAIだったら、論旨は同じでも個性的な表現を使った猛烈にたくさんの「意見」が一瞬で生成できる。さらには結論は同じでも論理展開の異なる「意見」も生成できるだろうし、個性の違った山ほどのアカウントを生成し、それぞれのアカウントのタイムラインが一貫した内容と表現の個性を備えるようにもできる。人格のエミュレートを固定化すれば、やりとりもきわめて自然になる。
これは頭の強いおっさんでも引っかかるだろう。というか、事前に知ってて意識してなければ、老若男女もれなく全員引っかかるかも。
こんなアカウントが1万もあれば「空気」なんてすぐ変わっちゃう。ChatGPTのユーザーが「億」に達してることを考えると、コストは極小。広告代理店に流れるお金の規模を考えると、実現する未来と思ってよい。
これってまさに民主制への脅威だ。他の人の意見にまどわされず、利害関係にとらわれず、自分の考えを平気で表明できる人じゃないと空気には逆らえない。
「あなたは本当にあなたなんですか? AIではないんですか?」が疑われ、「あなたの意見は本当にあなたの意見なんですか?」が問われる時代が来る。ただし自分で考えている人にだけ。
自分で考えている人だって? そんな人がどれだけ居るというのか。常識とは20歳までに身に着けた偏見の集合であり、人間の意見は多かれ少なかれ他者の意見で構成されている。長く考えてきたことでも、新たに入ってきた情報に量と質が伴っていれば、次第に変わっていくだろう。「君子は豹変す」。時代に合わせて柔軟に考えられることこそ知性の証ではないか。
つまり、ほとんどすべての人が、
「なんだか『オレの思った通りの』政策がどんどん決まる時代になったけど、ぜんぜん結果が伴わないのはなんでだろう」
と思うようになる。為政者の思惑とは逆に、意見の多様性が全周に目配りの効いた生産性の高い社会を生み出すことができるのが現代だから、これは当然そうなる。AIが大きく進んだ現時点までに自分で考える国民を多数生み出し損なった国では頭の弱い為政者が当選し続け、「統一」された意見によって国家が運営され、効率よくおバカな行動を取るようになる。
あれっ? 日本ていま、まさにそんな感じなのでは? これからは世界の大部分がこうなるってことかしら? ある意味個性的になるというか、国家の「キャラ立ち」が鮮明になっていく?
いやーおもしろい。AIで意見がさらに統一されやすくなり、日本がますます沈むところまでは読めても、同じ文脈が世界的にどう影響していくか、帰結がどうなるかはまったく読めない。
マジで面白い時代ですなあ。立ち会えるのは、めちゃめちゃラッキーである。