我々がMaker Mediaをスピンアウトした理由

Make:誌の出版やMaker FaireのMaker MediaがO'Reilly Mediaから独立しました。
Tim O'Reillyがそれについてエッセイを出してます。

本日(2013年1月24日)、O'ReillyメディアはMaker Mediaの分社を発表した。我々がこのようにした背景について、またMaker Media社にどんな希望があると考えているのかについて少し書きたいと思う。

エンスージアストから起業家へのアーク


次の10年でもっとも興味深い技術はソフトウェアだけのものでなく、ハードウェアを含むものとなるだろう。Makerムーブメントは、他のすべてのエンスージアスト・ムーブメント同様、より深甚な変化の先触れだ。


Dale DoughertyがMake:誌の出版とMaker Faireを始めた2005年に最初に認識していたのは、物を作ることへの興味が、3Dプリンティングその他の形の高度製造技術やロボット工学、センサープラットフォームのような新技術から従来の手作業の技術まで、すべてを巻き込んで新たに吹き上がっていることだった。同誌の初期のプロジェクト - 凧による空中写真、古いビデオデッキを使ったプログラマブル猫エサやり機、環境毒素を嗅ぎ分けるようハックしたロボット犬といったもの - は、当時は他愛もないと思われたかもしれなかったが、次に来るものの前触れだった。


2005年、Jeff HanのマルチタッチインターフェイスはNYUでのmakerプロジェクトにすぎなかった。2006年2月、彼はTEDで成果を披露し、それは「ワオ」の瞬間だった。1年半後、iPhoneのリリースにより、マルチタッチスクリーンは変革的コンシューマ製品の基礎となった。


マルチタッチは始まりにすぎない。スマートフォンはセンサープラットフォームだ: GPS、コンパス、加速度センサ、カメラ、マイクロフォン、その他何ダースもの特殊センサがアプリケーションデザインに新しい可能性を作り出し、それは最近ようやくフルに開発されつつある。Square WalletやUberのようなアプリケーションは、こうしたプラットフォームが無ければ不可能だった。


問題は、AIについてもよく言われてきたとおり、何かがコンシューマ世界への境界をまたいだ途端、それは"makerっぽく"なくなることだ。Nikeがクォンティファイド・セルフ(自己定量化)のデバイスを売るとき、風呂場の体重計があなたの体重をつぶやくとき、それがMakerムーブメントの一部であるとは思いにくいものだ。
だがセンサーの適用をアプリケーションやビジネスプロセスまで持っていくのに必要なことの量を考えれば、見落としていたであろう重要な機会が見えてくるかもしれない。


ひとつのセンサーとArduinoのようなコントロールプラットフォームであれば、依然としてMaker世界に属すものに感じられる。しかしスマートフォンというコンシューマセンサープラットフォームを使ったアプリケーションには、それは感じられない。だがこれこそが、未来をクリアに見るのに役立つであろう差異の本質だ。


Makerムーブメントのトレンドラインを理解するには、自分に問いかけてみるとよい。「いまmakerたちが遊んでるもので既にメインストリームに来てるものはどれだろう? 他種のデバイスやビジネスプロセスで、センサーの追加により変容するものはどれだろう? このうちスタートアップ向けの機会になるのはどれだろう?」


これを自問してからあたりを見回せば、Makerムーブメントが"次の大きなアレ"であることが理解できるはずだ。


そんなわけで、我々はMaker Mediaをこのイノベーションの新しい波に乗る独立したマシンにする時が来たのだと決めた。O'Reilly社における私の初期からのパートナーであり、Make誌とMaker Faire両方の創始者であるDale Doughertyは、この波が来ることを察知し、この7年間それを育ててきた人物だ。いまや彼は、自分の仕事を続け、それを次のレベルに持っていくためのプラットフォームを得たのである。


以下はDaleより、Makeの始まりについて、および彼がMaker Mediaをどこに持って行きたいかについて少し。


Makingはポピュラーに

Dale Doughertyより


Timに初めてMAKE Magazineのアイディアを話したのはPortlandを走るタクシーの中だった。Open Source Conferenceに向かう途中で、「ギークのためのマーサ・スチュワート」になるであろう新雑誌について何分か話すことができたのだ。会話は調子よく、我々はハッカーが物理世界をどうハックするかという話をした。ソフトウェア開発から学んだマインドセットを適用し、物理環境をカスタマイズ、パーソナライズ、クリエイトするのだ。Timの励ましはMAKE Magazineになるものを開発していく最初の一歩だった。何年も後で我々が世界的なMakerムーブメントについて話すなんて、まったく思っていなかった。実際、ことは同時多発的であり、作ることとその背後にいるギークはメインストリームに殴りこんだのだ。Makingはいまやポピュラーだ。


ことの最初から、私はmakerたちに魅せられていた。makerに会うことが、彼らのストーリーを知ることが、やっている魅惑的なプロジェクトを直接みるのが楽しかった。そして、Makerたちは互いに会うのが、互いのプロジェクトのことを話すのが、私とでも共有できるような詳細について共有するのが楽しい、ということを理解したのだった。それはMaker Faireへのインスピレーションだったが、当時の私は、他の人達もmakerが魅惑的だと思ってくれるか疑っていた。Maker Faireは気づきの経験そのものだった。Sherry Hussを頭とするチームが最初のMaker Faire in the Bay Areaを企画し、我々はそれをフェア会場やエキスポセンターで行うことにした。Maker Faireを楽しいものにして、家族連れに来てほしかったのだ。我々はフェアの再発明をしたのだ。2012年には世界中で60以上のMaker Faireが開催され、そのほとんどは地元の都市・地域でmakingをサポート、推進したい、コミュニティ志向の個人によって企画された。


MAKEはギークなホビーストとともにスタートしたが、現在の読者には楽しくて教育的な一緒にやれるプロジェクトを求める家族というものが含まれる。また、新しい製品やサービスを他のmakerや他の読者向けに開発しているmakerたちも含まれる。プロのエンジニアやインダストリアルデザイナーも含まれる。makerたちはやっていることに市場があるのを発見して、(ときにはたまたま)起業家となっている。彼らは部品やキットを開発し、Maker Shedや他のたくさんの場所で売っている。彼らは3DプリンタやCNCマシンやマイクロコントローラといったツールを開発する。makerたちは新しい市場エコシステムを創りだしているのだ。


MITの経済学者で、イノベーションのエンジンとしてのキットについてMAKEのキット特別号に書いたMichael Schrageは、Who Do You Want Your Customers To Become?✝ という本を出した。彼は書く。最高のイノベーションは顧客を変容する、と。それは彼らの未来を「イメージしなおし、定義しなおし、そして設計しなおす」ことで、彼らをつかむのだ。Maker Mediaのミッションは、より多くの人々がmakerとなり、自分の、家族の、彼らのコミュニティのよりよい未来を作るのに広く参加する、その手助けになることである。


私はMaker Mediaとそのチームが得た機会に興奮している。Timに、Laura Baldwinに、O'Reillyでの同僚たちに、そして外部に広がるO'Reillyコミュニティに、MAKEの成長をサポートしてくれたことを感謝する。この新しいMAKEの開発を、makerを引き合わせるグローバルブランドとしてMAKEのリーチを拡げていくことを、非常に楽しみにしているのである。


✝(Schrage, Michael (2012-07-17). Who Do You Want Your Customers to Become? (Kindle Location 57). Perseus Books Group. Kindle Edition.)

いかがですか。こういうのを読んでいて感じるのは、あちらでは物事が非常にどんどん進んでいくな、ということです。ただ、日本ではいろいろな制約があっていろんなことが進まないように見えるんだけど、その多くは実は心理的なことかもしれないです。見えない何かを恐れて前に進めないものが多すぎるようにも感じられるのです。

よいことは勝手にやろう。

追記。

金井さんがちゃんと訳したやつが本家に載ってました。しかも2日くらい前に…w たいへんお恥ずかしい。わりと日本法人の経営的には微妙な話題なので、概要だけが伝わって本文が訳されたりはなかなかしないだろうな、と思って急いで需要を埋めにいったんだけど、ちゃんと訳されましたね。オレは面倒がってカタカナ語ですっ飛ばしてた部分を金井さんはしっかり訳を付けてたりして、いろんな意味で恥ずかしいです。それにしてもこれちゃんと訳すんだなー。

編集はプレッシャーをかけにかかっているかもしれません。ちょっと今後が期待できるなと。