読んだ。
gigazine.net
記事によれば、陰謀論を信じる人は:
- ランダムなパターンから意味のある図形を見出す傾向がその他の人より高く
- 高等教育を受けておらず
- 批判的思考スキルが低く
- 論理の欠陥を見つける能力が低い可能性が示されている
らしい。
…ここまでバカ呼ばわりされて、自分の信念を「陰謀論であると認める」人は居ないんじゃないかと思うんだけどね。誰得記事だw
あと、傾向としてはその通りであるにしても、例外はいくらでもいる。MIT卒でシリアルアントレプレナーのスティーブ・キルシュという人がいるけど(インフォシーク創業者)、この人の論理の欠陥を見つける能力が低いとは誰も思わないだろう。しかし彼は反ワクチン、などというレベルまで行ってしまった陰謀論者である。
www.technologyreview.jp
思うんだけどね、こうした傾向を持つ人がこれほどたくさん居るというのはむしろ、この傾向になんらかの適応的意義があるためだと思うんだよね。
上の記事で挙がってる4つの性質のうち、後ろの3個は後天的なものだ。しかも同じものを示している感じがある。論理能力が低いために論理の欠陥を見つけられず、批判的思考ができない、というのはありそうなことである。これは成人教育でも補えると思う。
残ったひとつ、最初に挙げられてる、「ランダムなパターンから意味のある図形を見出す傾向が高い」というのは、しかのさんが『サはサイエンスのサ』で書いてた、『インフルエンザと魂かなしばりの術』の話に通じるものがある:
科学ってのは、とりあえず、この世界を最も正確に描写できる方法だと思われているよね。でも、そのやり方は、ゲゲゲの鬼太郎の必殺技、「魂かなしばりの術」みたいなものだ。
この術は、強すぎて鬼太郎も敵わないとか、人間に憑依していて直接攻撃できない妖怪を倒す時に使われた奇計なんだよね。
どういうものかというと、まず鬼太郎は画家の扮装をして、倒すべき妖怪の家を訪れる。
で、あなたは強くてかっこよくて素晴らしい、ぜひ肖像画を描かせて下さいと頼むのね。おだてられていい気になった妖怪はそれを許可。鬼太郎は、あなたの好きな色は? とか、好きな食べ物は? とか質問を一つしては紙とか石に点を打ち、点描のように肖像画を描いていく。
ある数の点を打ち終わったとき(個数は適当みたい)、鬼太郎はその点を素早くつないで絵を完成させる。すると、妖怪の魂は、絵の中に封じ込められ、あとは紙を焼くなり石を井戸の底に投げ込んで終了〜。
科学ってのは、まさにこんな感じで、世界に対して、実験や観測などの形で質問を投げかけ、一つずつ点を打っていく行為なんだよね。点一つだけでは、世界はほとんどわからないけど、たくさん点を打つうちに、なんとなくそれっぽい絵が浮かび上がってくる。
そしてこれは、書いてある通り、科学について記述したものなんだよね。
なぜこうなるか。まず人間の脳には、どんなものにもパターンを見出してしまうバイアスがある。
"幽霊の正体見たり枯れ尾花"
というけど、ヒトのパターン認知が歪んでるのは、危険なものを避けるためにパターンを高速に検出するためのショートカットの仕組みがいっぱい組み込まれているためだ。
そしてこの性質は、おそらく自然環境での進化の中で発達したと考えられるわけだけど、人間社会の中でも非常に役立つ能力だったりする。現代のヒトという生物は、自然界より人間社会という環境に強く適応した生物なんだけど、この性質に関してはどちらの環境でも非常に有利なわけ。
人間社会でこれが有利になるのは、敵から逃げるためではない。「他に先んじて確信する」ということが大事だからだ。パターンを見出す能力というのは、ここに効いてくる。
この株が騰がる、という情報を掴んだ人の中で得をするのは、「情報を見て」「その株が騰がる前に買った人」だけだし、ラーメン屋をやって儲かるのは、ここでラーメン屋をやったら儲かる、という「発想」を持つだけでなく、実際に「行動」して投資した人だけなのだ。
これはたとえばサイエンス分野でもおなじことだ。あることを世界中で同時に発見した人がたとえば10人いたとしても、発見者として記載されるのは最初に論文を出した人だけである。つまり、その発見が真実だったとすれば、十分だと考えるに至る材料の数が少ないほど有利である(論文がアクセプトされるだけの説得力は必要だが)。
行動するには、なけなしの資源を投入するには、必ず確信が必要だ。
そして、商売なんかの場合、偶然が作用する領域はとても大きい。たいした材料がなかったとしても、最初に確信して投資して狂ったように働けば、そこそこの確率で成功してしまうものだ。
だから、成功するには確信能力「だけ」でいいことが多い。「確信能力」には単独で価値があるということであり、だからそこには進化的バックグランドがあるはずだ。
最初の記事で出てた陰謀論者を記述する「他の人には見えないパターンを見出しやすく」「それを盲信する」という能力が、成功するのにどれほど大事か考えてみるとよい。教育レベルとは相対的なものであり、受けてきた教育がふっとんでしまうようなレベルの確信を持っていてこその大成功なのだ。
たとえばスティーブ・ジョブスなんか、めちゃめちゃ良い例なんじゃないかしらね。十代にして起業により巨万の富を築いただけでなく、手術で治る癌を放置して死に至ったあたり、面目躍如という感じ。
こうした無根拠な確信は大成功と陰謀論の両方に必要なもので、片方だけを取り出すことは、もしかしたらできないのかもしれない。確信能力が高ければ高いほど、教育レベルの高さを圧倒しやすくなるから。
年をとって陰謀論者になる人が多いというのも、遺伝的レベルで支えられてる確信能力が、大脳にむりやり載せた「教育」や「最新情報」を圧倒するからだと考えれば、無理のないことだろう。
たぶん、陰謀論を信じちゃうような人は、日常生活のありとあらゆる部分に、根拠のない確信を抱いてる。特定の陰謀論について着目した場合にのみオレらの目に付くんだけど、生活のもっと広い範囲が確信に満ちているはず。
それはなかなか幸せな生活であると思うし、そういう人が経済を回し、オレらを養っているのである。
…てなことを、オレは確信しているよ。
10年前の本になっちゃったけど面白くてオススメです。