3Dプリンタで正多面体を作ったよ

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正多面体とは同じ大きさと形の正多角形が同じパターンで各頂点を取り囲んでできている突多面体のこと。英語で言うところのPlatnic solidあるいはregular polyhedronというやつです。

題には3Dプリンタで作ったよ、と書いたけど、3Dプリンタで作ったのは角のジョイント部分だけです。辺は竹ひごや紙管を使い、面はvoid(空虚)です。

そして立体を作ったのはオレではなく、放課後子ども教室の小学生たちです。

正多面体には正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類のみが存在し、Wikipediaにはそれぞれのスペックが表になって載ってます。

ja.wikipedia.org

小学生にした説明:

  • 算数で扱う「正XX」というカタチは、すべて同じ辺、同じ角でできているもののことをいいます。正三角形とか正方形とかあるけど、全部そうなってるよね?
  • 正多面体も同じ。全部同じ長さの辺と同じ角でできている。
  • これは世の中に5種類しか無い。そういう話は高校くらいまでやらないけど、その証明は小学生でもできると思う。証明ってのは「それ以外ありえない」と誰でも納得できるように説明すること。

そんなわけで、まずは竹ひごで作ります。

第一週: 竹ひごバージョン

3Dプリントするモデルはこれ。

www.thingiverse.com

これのファイルをOpenSCADで開き、ソースにある直径の指定のところを2.3mmに変更してモデリングすると、ダイソーで売ってるΦ1.8mmの竹ひごにピッタリでした。

穴を特別視して調節できるスライサなら別の(正しい)寸法でもいいかもしれませんが、自分としてはこの直径だけで管理するのが簡単でいいと思いました。(プリント後に修正する際、2mmのドリルで穴をきちんと空け直すとスカスカになったので、竹ひご自体は1.8mm規格に従っているものと思われる。)

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プリンタ3台で量産

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10人分完成

一人分が4+8+6+20+12=50個ほどあるので、10人分で500個必要です。

たまにプリント失敗も出るので(ABSの小物なので非常に工夫しても剥がれたりする)、予備も含めて550個くらいプリントしました。三日三晩くらいかかってます。

多くはそのまま使えるものの、入り口のところのオーバーハングが垂れて入らないものも多数。これは2mmドリルの刃先で垂れた部分を切り取り、さらに刃の溝に沿って回しながら突っ込むことで、丁度いい穴に修正できました。

竹ひごは6+12+12+30+30=90本が必要。ダイソーの1.8mmは長さ36cmで25本入っているので、1本を4本に切ると100本となりちょうどよかったです。コストはプリントしたジョイントの材料費が100円くらい、竹ひごが110円で合計200円ちょっと。

これを小学校に持っていったところ、このようになりました:

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1年生のこの子が最速で作り終えた

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面も内実もスカスカなので、みんな組み合わせて遊び始める。

この日に参加していた1年生から4年生までのほとんどが全ての立体を完成しました。1、2年生で持ち帰りが出たり、ふてくされた態度の4年生(それでも完成させた)も居たりしたけど、楽しくハンズオンで正多面体に触れる、という目的はおおむね達成。

第2週: 巨大バージョン

次の週は巨大バージョンです。昨年11月にΦ38mm、長さ108cmほどの紙管を大量に頂いたというのがこの企画のスタートで、こちらはそれを使ったバージョン。竹ひごは長さ9cmだったので長さで12倍、ということは体積は12^3 = 1728倍ですね。

プリントするモデルはこれ:

www.thingiverse.com

12面体と20面体は Polyhedrons 20 and 12 faces tube models to build by john3d - Thingiverse を229%に拡大しただけのリミックス。4、6、8面体は、これらに合わせて自分で設計したもの。

プリントには1個あたり数時間かかるので数ヶ月を要しました。11月からはじめて2月に入るかどうかというところでどうにか出来上がったので2ヶ月以上かかったのかな。こちらのプリントの目処が付いてからイントロ用に竹ひごバージョンをでっち上げたというのが実態です。

こちらのプリントはトラブルも多くて楽しかったです…。

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反って剥がれたのをマスキングテープで無理やり継続

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0.6mmノズル導入のテストプリント中にフィラメントが切れたので別の色で継続

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サポートが外れない

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TRONXY機の持病であるステッピングモータ脱調→脱力がZ軸モーターで起きた例。「おいしそうな卵料理」と呼ばれる。

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ABSが貼り付くようになったら反りで割れるように。KP-3はこのためこのジョイントから撤退。

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どうにかこうにか揃ってきた正十二面体ジョイント。

大物大量プリントのノウハウがどんどん貯まりました。

そしてプリントにいくら時間がかかろうと、組み立てるのは一瞬です。

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一人で作りたい!と熱望して正二十面体を一人で作った2年生(大人はちょっと補助しただけ)

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ちょっと間違った方向に発達しつつある正十二面体

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ちゃんと完成した

当初、1年生は正四面体、2年生は正六面体、3年生は正八面体…などと割り当て作成を開始しましたが、簡単な立体は低学年といえど一瞬で作り終えてしまうので、巨大で時間のかかる正十二面体は、ほとんど全員で作ることになりました。前週にふてくされてた4年生は欠席しちゃいましたが、お手伝いを頼んだ6年生やお母様方が居たので、それでも全部で30分ほどしかかからずに完成。

トラブルとしては、やはりジョイントがキツすぎるものやスカスカのものが出ました。紙管を1本持ち帰って現物合わせでプリントしたものの、小学生が差し込めて簡単には外れないという要求は、自分だけで試していたときよりかなり厳しく、抜けやすすぎたり入りにくすぎたりしました。低学年は斜めに入れがちだし、キツいのは床に押し付けたりするので耐久性が試されることとなりました。

また、少しの余裕をとったつもりが実はスカスカ、というのもそこそこありました。個体のブレもあるんですが、初期にプリントした十二面体ジョイントにこれが多く、形も複雑なのでなかなか大変な感じになりました。対処としてはパイプに入る部分に3Mの荷造り用幅広透明テープをぐるぐると3、4回巻きました。ガムテープだと非粘着面の食いつきが良すぎて抜けなくなるなと思ったのでこれ。

他に困ったのが、力が掛かりすぎたりインフィルの量やパターンが不適切だったり材料が弱かったりして壊れたものがいくつも出たこと。時間も樹脂もかかるので壊れるのはツラい。とはいえそれほど多く壊れたわけではないです。

ともあれ、みんな大喜びで作ってたので結果オーライ。

最後は出来上がった立体を使って遊びました。出来上がった立体は5種類すべてが同じ辺の長さなので、同じ形状の面があれば、そこでぴったり重なります。正三角形を持つ正四面体と正八面体と正二十面体は面を合わせて重ねることができるし、正八面体の中心断面には正方形が隠れてるので正六面体(立方体)に斜めにはめることができます。辺の長さがすべて等しいのに様々な性質の立体ができるのはなぜだ…とか思った子がいればいいなあ。

正十二面体は内接円の半径が辺の1.114倍ほどあるので(上記Wikipedia参照)、つまり高さが108 * 2.23 ≒ 2m40cmほどとなってド迫力。子供がみんなで中に入って大人が外から転がす、というのが楽しかった。

気になるコストですが、フィラメントを2.5kgくらい費やしたので、材料費だけで6千円から7千円かかってます。紙管を買ったら予備含めて100本で1.5万円〜2万円といったところ。総額3万弱ですね。全部を買う必要があったら企画しようとは思わなかったです。まあ、一度作ってしまえば後は楽な感じ。

来年はジオデシックドームを作りたいかも。紙管を少し切断するか、逆にジョイントを長くするとかする必要がありますが、これで作ったドームに布をかぶせて3D影絵をやるのは楽しそうです。