中国からの電話

スマホが鳴った。見ると+86の電話番号。中国からだ。

数年前まで身内が中国に留学したりしてたけど、いま中国から電話がかかる心当たりはない。 少し前に、何度か自動音声で入国管理局です…みたいなのがかかってきたことがあるが、あれは日本滞在中国人向け詐欺電話自動応答システムだったらしい。 またあれかな。と思いながらも鼻をつまんで水に飛び込む気分で出てみたところ、自動音声ではなかった。低い女性の声が、なんだか自信なさげに言う。

「モシモシ、あなたアリエクスプレスで…電気…電気…買いました…ですか」

電気…電気?

「はあ? 電気…は…買っていません」

とつられた口調で答えるわたし。

「ああ、ちがう…電気…電気の……ハコ。(自分で苦笑) アリエクスプレス‥です」

ここらへんで、これはもしかしたらマトモなサポート電話なのかもと思い始める。

女性は続ける。

「あなたの買った…電気の…は220ボルト…です。日本の100ボルトじゃない。だから確認…です。」

ふうん? わざわざ電話で確認? まあ中国は電話が気軽な地域だが。

パソコンがすぐ近くだったのでAliのメッセージセンターを開いて見ると、昨日買った凹面IHコンロのショップから大量のメッセージが来てた。なぜか同じメッセージを3個ずつ送ってくる仕様になっているようでえらいことになっているのだが、要するに電話と言ってることは同じ。製品は220Vである、変圧器がないと使えない、発送前に確認をお願い、みたいな内容。オレが答えないから電話してきたということか。

でもこのショップかどうかわからない。一応聞いてみる。

「あなた、どこからですか?」

「アリエクスプレス…です」

「アリエクスプレス、たくさんショップあります。どのショップですか…?」

「ちょと…待ってください」

どうやら日本語ができるというだけで呼ばれた知り合いとかで、ショップの名前すらわかってないっぽいw

「くおりてぃ、えれくとろ、まーく、です」

買ったところのショップ名はQuality Electro Mart Storeなので微妙に違うのだが、どうやら間違いない模様。承認して問題なしだね。というわけで

「220ボルト、だいじょうぶです。送ってください」

と返事をした。すぐ発送作業に入ってくれるようだ。

…いやー、いいね。

ひさびさに思いましたよ。スゲえ良心的なショップだ。と。

Aliのお店の多くはたくさん捌くことしか考えてないので、まず確認なんかしない。平気で送りつけてきて、クレームは突っぱねる。商品ページに確認しろって書いてあるでしょって(実際書いてある)。

それで通るのに、メッセージを何度も投げてきて、最後は電話までしてくる。中国人同士のやり取りとしては(クレームも強烈なので)ぜんぜんありそうな対応だけど、おとなしい日本人相手にこういうことをするなんてすごい。

あるいは、買ったものが中国人しか使わないはずのものだから日本在住中国人と思われた可能性はあるかも。日本語で電話してみて中国語が返ってきたら即座に中国語でコミュニケーションを取るつもりだったのかも。

たいへん好感を持ったので、メッセージでも「オレはライセンス持ってるから単相三線を特別に配線して200Vは普通に使える。大丈夫」といった内容を投げておいた。

ちなみにこのお店です。チャイナ家電屋。

https://www.aliexpress.com/store/1103856347...

ポジティブレビュー度は72.8%と、すこぶる低いw

でも良い人たちがやってるような気がするよ。

ソーラーオフ春のアウトレットのファイナルセールが凶悪

ソーラーオフのアウトレット、今回の最終値下げとのことで更に頭のおかしい値段のが出てる。これなんか450Wのパネルが11,110円。送料別で1枚毎にかかるけど、こんだけぶっ壊れた価格だったら誰が買ってもすぐ元が取れるはず。Voc(開放電圧)が49.7Vあるのだけ注意で。

www.solar-off.com

Vocがもうちょい低いパネルがいい人は、ウチでも使ってるこっちの両面パネルがおすすめ。Voc38.25Vの425Wで11,220円になってる(オレが買ったときより4000円以上安いw)。過積載しやすいです。

www.solar-off.com

電圧が高いと少ない枚数でもパワコン(インバータ)を起動しやすいですが、逆に電圧制限にも引っかかりやすいです。

で。恐ろしいことに、上の2種類のパネルは10枚以上だと10%引きです。ブッ壊れ価格からさらに引く。

そしてこの2種類はほぼ同じ値段なんだけど、10%引きによって片方のパネルだけに起きる、ある恐ろしい現象に気づきました。

つまりですね、ライセンの11,110円という価格は「1並び」すなわち講演の謝礼なんかを貰うときに源泉徴収の1割を引くとキリの良い数字になる金額から、1円を引いた数字になってるのです。

だから1枚あたり、なんと9,999円! 

450Wの大型ソーラーパネルが1万円切り!!!

もちろん、これは10枚以上買ったときの価格だし、送料もかかるんですが(安い本州・四国・九州で1枚1650円。沖縄だと6600円やで…)、字面のインパクトが凄すぎる…w

1kWあたり1000ドルを切ったと話題になったのは何年前でしたかねえ…。いまやマジで「お布団より安い」「玄関マットより安い」「面積当たりならバスタオルより安い」「フェンスに最適」という価格になってしまいました。

パネル1kWあたりの発電量はソーラークリニックのデータに基づく目安が公開されてますが、ほとんどの地域で 1000kWh/パネルkW 以上です。下を見て1000kWhで計算すればまず間違いなくて、つまり450Wのパネルなら年間450kWhくらいは発電してくれる。いまの平均的な電力単価は45円/kWhくらいですから、45*450=20250円分です。インバータとか架台とか配線とかの経費を入れなければ、半年で回収できてしまうということ。

買ってから悩もう!!! セールは6月30日まで。

電力会社の入れ替え

電力会社の切替を申し込みました。

out: Looopでんき in: シン・エナジー

です。

自宅のソーラーシステムは、だいぶ前に書いた構成からいろいろ変わって、いまはソーラー+バッテリーによって生活に必要な電気のかなりの部分が自給できてます。

でも、バッテリーが足りてなくて完全自給はまだまだ遠く、電力会社とも契約しています。

いまのバッテリー量でも日差しがあって冷暖房が不要な春の一時期は24時間供給できることがあるので、まかり間違ったときには月額ゼロを達成したい…との考えから、基本料金ゼロのLooopでんきを使っていました。ここはJepxの電力単価に託送料金と7円/kWhの手数料を乗せて売るというシステムで、高いときには高くなりうるけど、まあ基本的には他の大部分よりも安くて良い会社です。

ところが沖縄県でだけ、この春から基本料金を徴収するようになる…とのお知らせが1月にありました。沖縄には実は電力市場が存在しないんですが、システム価格なる地域無関係な、本当に市場価格なの? という感じの変動料金で売ってくれるシステムになってました。実際には調達がそれほど自由なはずがないので、大丈夫だろうかと思ってたら大丈夫じゃなかったみたいです。

まあ基本料金を始めますといっても、どうせそんなにひどい金額ではないだろうと放置してたんですが、そういえば春からだったな…とちょっと気になって今日になって調べたところ、基本料金は「12ヶ月以内で30分あたりの最大の使用量(kWh)*2 * 985円」という算定方法になってました。…あれ? もしや結構かかるんでは?

ウチで最大の使用量(30分)というと、いつでしょうか。たぶん、夏の夜にエアコン全開でバッテリーが切れたタイミングなはず。

それで昨年7月の詳細計測値(ありがたいことにダウンロードできる)を調べたところ、7/20の22:30-23:00に30分間で1.3kWhを達成してることが判明しました。この数字で計算すると、基本料金は1.32985=2561円ということになります。月々1万円払えば「高いな」って感じなのに、こんなに足されるのはさすがに悔しいところ。たぶんLooopでんき的には沖縄は赤字垂れ流し状態だったので、お疲れ様でしたって感じもあるんだけど、ここはちょっと反逆したい。

そんなわけで、基本料金が一番安いところを調べてシン・エナジーに申し込みました。春までは楽天でんきが基本料金無料だったようですが、こちらはなんと、この春で供給を終了しており、申し込めるところではシン・エナジーの基本料金403.21円が最安でした。

プランは昼間が高くて深夜は安い「【夜】生活フィットプラン」というのを選択。ソーラーとバッテリーが使える時間は高くても構わないからです。このプラン、深夜電力が今どきなんと24.21円/kWhです。ちなみに沖縄電力だと深夜帯が一番安い「Eeホームホリデー」でも28.79円/kWh。その他の時間は沖電が50円くらいでシン・エナジーが30円くらいなので、もっと大きな差があります。(後から調べたところ、実は燃料費調整額もシン・エナジーは6円/kWh程度、沖電は11円/kWh程度と大差があり、燃料費調整額(日本全国4円/kWhくらい)をあわせるとざっくり沖縄電力が60円/kWhでシン・エナジーが40円/kWhという価格感でした。沖電たかい。)

上記のように、ウチは基本的な部分はソーラーで供給してるので、電力会社による価格差が「生活直結!」って感じはしないんですが、それでもときどき見直さないと意外に損をするな〜…という印象です。

まあ、本当はバッテリーを買い足するのが一番なんですが…。

柞刈湯葉のラノベ『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』がたいそう面白かった

というだけのブログ記事なので、結論を急ぎたい人は買って読むだけでいいと思います。

以下余談。みたいな本文。

ここのところ何故か「なろう」とか「カクヨム」とかのラノベをAozoraepub3でmobiに変換してKindle Oasisで大量に読んでる。

kamosawa.hatenablog.com

「なろう作家」という言葉があるように、こうしたオンライン小説サイトからプロになった人は少なくない。だから上位の人気作品ならプロの小説に比肩しうると考えるほうが自然だと思うものだ。でも、それは本当は錯覚であるというか、作家という存在はそうしたオンライ小説サイトの動向とはまったく関係なく存在し、たまにサイトに降臨して発見されて作家になる。ということがよくわかるのが柞刈湯葉の存在だと思う。作品をいくつか読むと、うん、まったく違うね、と納得する。

たいがいの人気なろう小説の主人公には自意識がない。過労死とかトラックにひかれて転生、みたいなお定まりのフォーマットに乗っかってるだけで、そうした異常な経験に至るだけの人間的な厚みがない。過労死する人はぜんぜん普通じゃないし、トラックにひかれるほど不注意な人もほとんど存在しないのだが、それらが普通の出来事として扱われている「お約束」の異常さすら意識されない。描写も乏しく、出来事や行動を淡々と述べるのみで、主人公を含むキャラクターに作り込まれた性格が行動に反映されることはあまりない。無意識に発露される作者の意識に行動が規定されているくらいのものだ。人間は自意識の塊で、特に若い男性なんか自分のことでいっぱいいっぱいなのが普通だと思うのだが、だいたいの作品では不自然に抑圧されている。

この、いまいち顔の見えないキャラたちの会話を主軸に出来事を説明的に淡々と述べる、という形式がなぜ成り立ってるのか、古い小説作法を知ってる者には理解し難い。説明するな描写せよとか、キャラクターがすべてとか、そういうことを気にして書いてると思われる作品が存在しないわけではないけど、ヒットしてるのは脱臭され、実感のこもらない書割のような人物がゲームの駒のように配置され、適当に動かされてるように見える作品が多い。何万ポイントも取ってる作品にリアリティのかけらもなくて、それが受け入れられている。

たまーに自分にも面白いのがあり、そういった作品は顔が見えるし、登場人物の自我が見える。たとえば、こないだKindle Unlimitedが3ヶ月99円とかだったときに読んだ左高例『Re: 異世界から戻ったら江戸なのである』というのはずいぶん良かったが、これは主人公がヒモという言葉を気にして「長くて物を束ねたりするためのアレ」と言ったりすることからもわかるように、ものごとをそのまま読者に見せるのではなく、常にキャラクターというフィルターを通して見せることに注力してるからだ。

人間は人間にしか興味がないんだから人間に語らせろ。ということだ。

このような批判は、昔のSF作家がおこなっていた私小説的な日本の小説作法への批判の裏返しに感じないこともない。人物ではなく事実を、物語ではなく出来事を描写せよという考えに則って見ると、過剰な性格描写を避けてプロットをそのまま書き下した小説のほうが本質を切り取ることに優れた「正しい」小説なのではないか。

そうかもしれないけど、その価値観においても大部分のオンライン小説サイト作品は面白くない。プロットそのものにあまり新味がなくて、自分が読む意味がよくわからない。過剰な性格描写を避けた、あるいはそういうものに欠けたSFといえば、アシモフやクラーク、あるいは小松左京がかつて書き散らした、アイディア一発で書かれたキャラクター性に乏しい短編というのがある。しかしああした作品にも、登場人物に人間性を与えて読者を小説世界の中に連れて行くだけの描写の厚みは存在してたし、それがあるからこそプロットを楽しめた。オンライン小説はそうした手間すら取ってないから無味無臭に近い。自分には味気ない。

そしてこうした点において、柞刈湯葉『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』は一線を画している。短編登場人物には確固たる自我がある。主人公の性格が行動を規定し、必然的に物語は導かれ、1冊を通して次第に明らかになる異様な世界観がある。ちなみに、これをラノベと言うのは新潮文庫nexというラノベ向けレーベルででていること、本人がカクヨムに書いていた『商業で短編小説を書くことについて』という文章に「ライトノベル業界に片足を突っ込んだときは」という記述があり、ライトノベルらしい作品が他にないことから。

キャッチーではない。かわいいヒロインも派手な魔法もバイオレンスも存在しない。理系大学生が理系大学生らしい行動を、ただし他人の気持ちにいまひとつ疎いその性格や、それを悩む自意識から必然的に導かれるような行動をしているだけだ。

それだけのことなのに、生まれる物語が良すぎて困ってしまった。楽観的で少し諦めたようなリアリティのある世界観がとても好き。

期待しないでいろいろ漁ってたら、不意に名作に当たってしまって目を白黒させてる感じ。最近読んでるもののレベルが低かったからギャップで高く評価してる可能性もあるけど、これは凄いものだとも感じている。

柞刈湯葉のやりたいことはアイディアを軸にしたストーリーに思えるのだけど、本質的に上手いのは奇妙なリアリティとキャラクター描写なのかもしれない。

あんまり褒めてない感じになってきたな。褒めてるんだけど。

試し読みが新潮社のウェブにあるので、ぜひ読んでみてください。

www.shinchosha.co.jp

オープンなものを使う

80年代にGNUCopyleftというものを雑誌『ログイン』で知った。90年代にLinuxを使い始めたあたりでその中身を知り、それからだいたいオープンな方向を気にしながら生きている。同世代にはそういう人が少なからず居ると思う。

オープンソース原理主義者はオープンなもの以外を認めない。オレはMITライセンスなどを通じた「現実的対処」というのもよく利用したので、あんまり偉そうなことは言えないところだが、オープンなものを使うことで生じた富が世界を豊かにしていることは十分に認識しており、またサイエンスやデモクラシーの本質はオープン性にあると考えるので、オープンであることを基本的な善のひとつだと思っている。

世界的に見ても、オープンであることは特にインターネット上では普遍的な善だったと思う。学術ネットワーク由来のインターネットの一般開放後、インフラのオープン性に引きずられるようにしてオープン性が地位を獲得した。

ただ、インターネットというオープンなプラットフォームの上で商売する者たちがオープンな見かけを保っていたのは、それがマイクロソフトの「邪悪さ」へのカウンターカルチャーとして発達したからという面もある。オープンでありながら商売として成り立つ、という状態を美徳としなければ、「あの邪悪な」マイクロソフトと同じになってしまうのだ。

しかしこの「オープンなものを使うことで生じた富」のコントロール権は、もちろんまったくオープンではない。

Googlegmailをリリースするとき、ありあまるほどの容量を無料で付けた。写真の容量も当初は無限だった。これらは今は有料化されただけでなく、保存容量単価が上昇する傾向にある。インフレにかかわらずHDDなどのストレージ機器の原価は低下し続けてるので、これらは単なる経営上の値上げだ。またGoogleはデフォルトの検索エンジンであることに多額のお金を使っており、これはオープンな精神の正反対を行く。

AppleApple][の時代からクローズドでピカピカのものを高価に販売したがる会社で、これはスティーブ・ジョブスが組み込んだDNAだ。OSにNeXT由来のBSD UNIXユーザーランドを持っているからといってオープンなものに親しみがあるわけではない。iPhoneが特別なスマートフォンだったのは最初の10年くらいだが、今もブランドの維持により高価格を保つ。OSの更新は性能がゆっくりとしか上がらないマシンたちを買い替えさせる陳腐化のために行われている。現在の富は囲い込みの成果でしかない。

Dropboxクラウドストレージの良いところを安価に提供した先駆けだ。ネット上のストレージにどこからでも、どのデバイスからもアクセスでき、しかもバージョンを戻すことが出来るというのは、アイディアではなく実装として優れていた。自前サーバとrsyncとバージョンコントロールを使って似たものを再現できると思ったものの、一人でそれをするよりサービスを使った方が楽だし、オープンな人たちが寛容なポリシーで運用してるなら安心だろうと思っていた。いまのDropboxは無料では3台までのデバイスしかリンクできず、有料プランは容量が少しずつ増えたものの20年経っても値下げされることがなかった。上場以来時価総額はずいぶん上がったが、哲学的には進歩してない。オープン性からの富を囲い込んだだけだ。

富はオープンなものから生まれ、囲い込まれ、貧しくなっていく。

こうした推移にはアメリカのビジネス特有の事情がある。つまり「常に成長している姿を見せる必要がある」ということだ。

上場から10年ほど、Amazonは経常赤字を垂れ流しながら高い株価を保つことで有名だった。成長企業とは将来にわたり価値を増やすことが「予想」されている企業であり、その将来価値が(現在価値に割り引かれて)株価に反映されるものである。だから高い株価には正当性がある。

そして高い株価は経営上の自由を意味する。株式交換で他社を買収したり、ストックオプションで報酬を支払うことが可能であるため、企業の現在価値より高く評価された株価とは企業を実態よりも優れたものとして実在させるのだ。

このため経営者には株価を実態よりも高く保つ強いモチベーションが生ずる。成長しきった企業の実態に株価が反映されるということは、株価が下がるということだ。これは企業価値を保つことで多額の報酬を得ている経営者にとっては金銭上の損失に繋がりうるだけでなく、個人的にも極めて不名誉で恥ずべきことだ。また、経営上の自由が損なわれることである。

このため、成長しきった企業も成長企業のような顔をする必要がある。

たとえば「世界市場を制覇した小売業」には、大きな成長余地はない。日本人の8割がAmazonを使っているとしたら、顧客数を2倍にすることは物理的に不可能だ。大きく成長する手段は顧客一人あたりの売上高成長と利益成長となる。つまり、

  • 顧客1人あたりの利益率を上げる
  • 顧客1人あたりの単価を上げる
  • 顧客1人あたりの経費を下げる

である。

利益率を上げる手段としては「安物を高く買わせる」「分不相応に高価なものを買わせる」「利益率の高いセクターのものを買わせる」などがある。単価を上げる手段としては「生活全体の購買における比率を上げさせる」「間違って買わせる」「無駄なものを買わせる」「分不相応に高価なものを買わせる」などがある。経費を下げる手段としては「従業員の待遇を下げる」「安価な輸送手段を追求する」などがある。

どれも「世界を悪くしてでも利益を上げる」ということに繋がっている。

インターネットを使って効率を上げた小売業が顧客である消費者に商品を安価に販売する動機は、それが売上高成長をもたらす間だけしか存在しない。最終的には利益を「成長」させる必要があるし、競合を市場から退場させた後にそれを止める者はない。

独占は不公正な市場を生む多数にとっての悪だが、便利で安心であることも確かだ。そして経営者には、顧客と従業員が我慢できるギリギリまで扱いを悪くする「強い動機」がある。ここのところの不均衡に気付いてしまうと、なんかもう付き合っていられない気分になる。

そんなわけで、オレは基本的にオープンなものを使う。インターネットはオープンな規格で出来ており、クローズドなアプリケーションの大部分にはオープンな代替物が存在してるので、案外困らない。3DプリンタもPrusaだ。ぜんぜん困らない。

ただしこれは自分にしか適用不能な方針だ。オープンなものが「めんどくさい」のも確かで、知識のない人には使いにくい。本当に成長中のプロプライエタリ製品を使うと得をしがち。

そしてインフラについては安定性が大事なので、オープン由来のNASなんかは悪くないと思っている。なのでコンピュータに強いとは言えない友人にはSynologyを勧めていた。

…のだが、Synologyはもう利益成長を目指すことにしたらしい。

gigazine.net

さすがにもう、いいかなと思った。こういうとこは応援しない。最初からオープンなものでいい。つまりNextCloudしか勧めないことにする。クラウドストレージの便利さってだいたいカンストしてるし、導入もそこまで難しいわけじゃない。

便利に発達させたアイディアで起業する人たちは応援したいが、オープンに保つ努力をしないならいずれ視界から去る。それなら最初から付き合いたくない。バカバカしいくらいオープンであることにこだわってることが重要だと思う。

ちなみに、カネを払いたくないわけではない。好き放題に毟られる「可能性」が存在し、あとから色々検討することになるのが面倒なだけだ。導入が少し面倒でもオープンソースなソフトを使って後顧の憂いを無くしたいということである。

大人はカネで解決して時間を節約すべきだけど、そのためには市場で2番目の選択肢を残しておく必要がある。

オープンソースソフトって、常に2番目的な位置にあると思うんだよね。

BYDが2026年後半に軽EVを投入してくることの意味

BYDが来年後半に日本で軽EVを発売するようだ。

www.nikkei.com

10年くらい前は「電気自動車は部品点数が大幅に減り、高度なエンジンを作る必要もなくなり、バッテリーとモーターを買ってきて組み立てるくらいの手間でクルマができる。すり合わせが得意な日本式の製造業のメリットがなくなり、伝統的な自動車産業以外からの参入が増えて再編が促される」みたいな話がよくあった。

実際、SONYのクルマとかAppleのクルマとかいろいろ構想されてた。けど、大部分はうまくいかなかった。Appleは諦めたし、ソニーはホンダと組んでイマイチなクルマを発表するにとどまる。Googleは…どうなったんだっけ? 雨後の筍みたいにEVメーカーが出来るはずが、巨大資本でもうまくいってないということ。

なぜそうなったか。EVもやっぱり難しかったというのと、商売には特徴が必要だったということ。つまり:

  • クルマの難しい部分はエンジンだけではなかった。ボディひとつ取っても強度と耐久性と衝突安全と軽量安価と乗り心地まで兼ね備えた「売れる」ボディを作るには本気で取り組んでノウハウを蓄積する必要があった。
  • 電池とモーターも自動車用となるとコストと性能の点で高度だった。買って組むだけではビジネスにならないことが次第に判明した。

こうしたことから、けっきょく世界的に売れるEVが作れるメーカーは既存カーメーカーとテスラのようなEV専業スタートアップに絞られてる。

ところが上記のような諸条件を考えてみると、BYDってさらにもう一歩先に進んだ存在なんだよね。

  • 自動車メーカーとして小型車からバスまで、EVからハイブリッドまで作ってる。エンジン付きは一旦撤退したけど最近復活してハイブリッドを投入した。

つまりマトモなEVを作れる自動車メーカーである。 しかもそれだけでなく、

  • もともと電池専業で現在もトップの実力を持ち、最新の電池を安く使える

という恐ろしい強みを持ってるのだ。これらがどう作用するか。

まず、電池を内製してるということは、他のメーカーより優れた垂直統合のコスト構造を持つということだ。

EVのコストで一番デカいのは電池であり、実装上でも重量・体積的に大きな割合を占める。性能に一番効くのは電池。電池の技術が高ければEVは安くて高性能になる。

電池はテスラの最大の弱点で、いまだにパナソニックの円筒形リチウムイオン電池をぎっしり積んでる。円筒形電池というのは、みんな大好き18650みたいなやつ。RoadstarとかモデルS、モデルXには実際18650を積んでたのが、モデル3で一回り大きな2170になったとか、その程度しか革新されてない。 この部分は認識がだいぶ古かったようです。テスラは4680型の(円筒形の)電池を内製しており、モデルYやサイバートラックに搭載しており、円筒形でも高いエネルギー密度を出しています。ただ、コストを含めた電池技術メリットをBYDほど持っているとは、やはりまったく思えません。

そんなことしてる中国メーカーはたぶんもう存在してなくて、低コスト長寿命でメーカーもユーザーも嬉しいリン酸鉄リチウムイオン電池をプリズムセルやブレードセルという大型で高密度なパックで積むのが普通。

そしてBYDのデザイナーになると、最新の技術で作ったさまざまな特徴の、つまり「充放電能力の高い」「安価な」「長寿命な」「高密度な」「安全性の高い」などのパラメータから選んだ最適な電池を使える立場にある。

自動車メーカーとしても、毎年毎年新型車を投入するようなターンアラウンドの速い中国市場でちゃんと新型車を出し続けて勝ち続けてるトップ集団の一角。10年前に想像されていたような「EVならポンと組んでサッと出せる」が中国でだけ実現されてるわけだけど、その中でちゃんと経験を積んだマトモな自動車メーカーであるということ。

そして来年出すという軽規格の新型車。ベースがあるのかと思ったら、新規開発だそうだ。国沢光宏氏がBYD周辺の日本人技術者に取材しての情報のようで、まず間違いないと思う。

kunisawa.net

日本市場でしか売れないであろう軽規格のクルマを専用に開発して投入してくる。Aセグメントの小型車からバスまで作ってるメーカーなんだから、それをやる能力は証明済み。

オレが何より驚いたのは、日本市場に本気だということ。

開発能力とかコスト構造とかは、中国のニュースをちゃんと見てれば普通の人にもわかったと思う。でもこうした強みを日本で発揮することはないと思ってたんだよね。BYDは数年前に日本上陸したけど、たぶん売れるであろうシーガルなんかは持ってこず、ATTO3みたいな高めのクルマばっかり持ってきてたから、あまり本気で進出する気がないのかなと。

ところが軽自動車を新規開発して売るというのは、もう簡単には足抜けできないくらいの経営資源を投入するということを示してる。日本でEVを普及させるには軽自動車を押さえる必要がある、というのは、見える人には見えてたことだけど、それを正しく認識して強烈な資源を投入してくる経営能力がついに発揮されてるわけ。

今度こそ日本メーカーを全滅させるくらいの本気で攻めてくるんだと思う。

250万円と報じられてるようだけど、たぶんガソリンの軽より安くなると思う。なぜなら、そうすれば売れるし、コスト構造的にも可能だし、一気に市場が取れるから。

日本の自動車メーカーで対抗可能なのはトヨタくらいだと思う。既に電池内製してて技術的に戦える可能性があるのがトヨタくらいだし、クルマの作りはさすがに上だし。

でもトヨタの電池はBYDほどのコストメリットがないし、軽は作ってない…。そもそも企業として軽向けのコスト構造はしてないと思う。ダイハツに作らせるとかになると意思決定速度で勝てないはず。

軽市場を取られたら、あとはイノベーションのジレンマの構造で、じりじり握られると思う。

やる能力はあっても、これまでは発揮されてなかった。それがついにやる気になった。そうなってみると、対抗できる感じがしない。

ちょっとびっくりです。将棋で言うと、なんか変な駒組みしてくるなーと様子見してたら、いきなり詰めろが掛かってる感じ。

将棋と違っていきなり決着が着くことはないけど、こんな手を本当に打ってくるとはまったく思っていなかっただけに苦しそうだ。中国メーカーが中国メーカーらしい強みで攻めてくると、びっくりするほど強い。

いろいろ壊れる

車のミラーにちょっとぶつかったら、ボキっと折れるような感触がして調整がゆるゆるになり、後から取れた。

沖縄は最近すっかり暑くなったな。と思ったらエアコンが壊れた。

自作の激安スピーカーの特性をどうにかフラットめにしようとイコライザで修正しつつ音を出していたらコイルが焼けて壊れた。

春になるとやる気が減衰していろいろ壊れるのが毎年の恒例行事だが、今年もやってきたので記録しとく。

車のミラー

右前方視界が良すぎるので下を見たら落ちてる、という図

ホントは走行中に取れたので再現図だ。

根本のシャフトが錆びて朽ちてたみたいなので、溶接で延長した。

ミラー側に溶着用のプラスチックを盛る。

シャフトをミラーに差し込んで整形。

取り付けてみたら失敗が判明。角度調整は軸側じゃなくミラー側で行うのに、ミラー側を変な角度で固めてしまった形。

もう一度溶かして修正。角度調整はできない。

さすがに困るので中古部品をメルカリで手配した。

届いた部品に早速交換して電動ドアミラー装備車になった。

(装備してるだけ)

エアコン

ここのところたまに除湿を掛けていたのだが、昨夜はオンにして10分くらい経っても風が冷たくならない。設定温度を下げても変わらないので、何℃と認識してるんだろうと温度確認ボタンを押したところ、いつもなら「オヘヤノオンド、XXド、ソトノオンド、YY ド デス…」と言ってくれるのに、いまは「カクニンチュウです」しか言わない。これは立ち上げ直後に温度確認しようとしたときの反応で、温度センサに空気が回ってきてないときの動作だはず。

強制冷房運転モードにしても常温の風が出る。気のせいじゃなく壊れてる動作だ。外に出てみたら、室外機がまったく動いていなかった。これは冷えるはずがない。

伝票を確認したところ、2017年購入で8年経っており、保証は切れてる。7万のエアコンなので修理代見積もりが4、5万を上回るようなら交換かな。そもそも「部品ありません」で修理不能になる気がする。富士通製なんだけど、安い機種は毎年モデルチェンジしてるようなので、2017年製が「製造中止後5年」に引っかかってる可能性は高い。

断られるor高い場合は、とりあえず自分で直してみよう。昨夏の終わりくらいから室外機が妙に高周波音を出していたので、ベアリング固着からのヒューズ飛びくらいの話かもしれない。

スピーカー


www.youtube.com

3Dプリンタで作ったぐるぐるうずまきエンクロージャ秋月電子の激安ユニットを組んだ自作スピーカー。周波数特性を少しでもフラットにしようとイコライザで低音を持ち上げ、ちょっと音が良くなった気がして調子に乗って音量を上げたら一発で壊れた。センターのコイル周辺が熱くなってたので、熱でコイルの銅線の絶縁被覆が傷んでショートしたものと思われる。