週刊少年ジャンプとか

ちょっと前から、ジャンプの編集方針が変わったような気がしてる。女性キャラの独立した人格としての振る舞いが非常にマトモで、「ヒロイン枠」がない作品が増えてるような。

いくつか例を。


チェンソーマン』

天才・藤本タツキが描く、言わずとしれた大ヒットマンガ。イカレた超常サスペンス。

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女性キャラ: いっぱい出てくるけど、みんな主人公なんかガキくさくって何とも思ってない。主人公は美女のマキマさんに惹かれて悪魔退治に身を投じ、さらにあちこち目移りしたりするものの、基本的にはひどい目にしかあわない。ついに初キス!と思ったら口移しにゲロを注入されたりする。


『カワイスギクライシス』

地球の動物たちのあまりの可愛さに腰を抜かし続ける宇宙人たちをめぐるギャグ。アニメ化決定らしい。

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あらすじ: 彼らは地球の調査に来た宇宙人の調査隊である。軍事力を伴い、調査の結果次第で地球人は皆殺しとなり資源を収奪される。念のための潜入調査に派遣されたエリート調査員、リザが出会ったものは…!!

女性キャラ: 主人公含め女性はみんな美女だけどスタイル穏当、等身大のまともな?人間ばかり。ギャグなのに着衣すら穏当で普通のおしゃれの範囲内。女性性を意識することすらない。


『スケルトンダブル』

普通の人が超人化する「透明化」能力をめぐる超常サスペンス。昨秋からの新連載ながら注目株。2週に一度の更新を心待ちにしてる。

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あらすじ: 新宿の交差点で衆人環視の中で謎の死を遂げた男。8年経って事件が忘れられた頃、男の息子に送りつけられた箱の中には謎のドクロが…。

女性キャラ: 唯一の女性キャラと言っていい「鎧畑さん」。タヌキ顔で長髪の一部を三編みにしてるかわいい系の装いながら、強くてシビアなダメ人間。唯我独尊独断専行。年が主人公よりかなり上っぽく、ヒロインになりようがない感じ。


少年誌の「お色気」ってほとんど伝統芸だった。

週間少年ジャンプの読者はもはや8割女性という話もあるようだけど、それでも長いこと「オッサンが操縦席に座ってるロボット女性キャラ(異常にグラマー)」が、そこいらじゅうで脱ぎ散らかして読者を扇情しようとする手前勝手な妄想世界が主流だった。

ああいうののリアリティの無さには辟易する感覚がひどくて読んでいられなかったんだよね。端的に言うと「ウェッとなる」。オレ以外の男性の評価としても、消えてしまったコンビニ店長さんの「男性誌の恋愛ものは読むに耐えない」って書きぶりが印象に残ってる。

実際少女漫画のほうが文学性が高く、はるかに読み応えがあった。萩尾望都山岸凉子佐藤史生大島弓子岡野玲子、みんな少女漫画だ。

ところが最近のジャンプのマンガには「他者」がある感じがするんだよね。女性が人間。

これは主要キャラが女性というだけではない。昔なら男性が担っていたキャラを美少女に置き換えただけの作品(あれもオッサンが操縦席に座ってる感じでウェッとなる)とは違い、ちゃんと自分の意志で動いてて、ストーリー進行上でも重要な役割を、しかもそのキャラクターの必然として担っていたりする。着衣も穏当で、そもそもぜんぜんグラマラスですらなかったり。ちゃんと人間!!!

藤本タツキは天才だから許されたとか、ギャグならいちいちお色気を導入しないことは多いとか(むしろヨゴレの方がギャップが面白いとか)、シリアスなサスペンスならお色気はないはずだとか、いえば言いえぬことじゃないんだけど、そういうものにもエロ要素を入れなきゃ気がすまなかった感じが少年誌業界にはある。ところが最近のジャンプの漫画には、そういうのが「皆無」のやつがたくさんある。

これが編集方針の変化なのか、作者の世代交代が進んだために、エロなしに「売れる」と説得できるような優秀な人が増えてきたからなのかはわからないんだけど、ウェッとならない、誰がどう見ても世界観の成立してる作品が着実に増えている。読み切りにもそうした形のすごい作品がいっぱい掲載されてるくらいだし(逆に連載になるとイマイチになることも少なくない)、潮流として捉えてもいいと思う。

ちなみにこれに対し、3大週刊誌と言われたあと2つのマガジン、サンデーについては、まだ旧態然のままだ。もともと割にフェミニスト寄りな感じだったサンデーについては、「女性は一応ちゃんと人間として行動する。ただしラッキースケベは必須だし、やたらに美人でグラマーなキャラ以外には引き立てもの以上の役割を与えない」という、大昔に見つけた妥協点から一歩も動いておらず、時代遅れがひどい。ジャンプで言うと『彼方のアストラ』の頃くらい。そしてマガジンは…マガジンは、いまだに少年の妄想から出てきてない。スポ根マンガなら当然のように添え物扱いだし、恋愛モノには大ヒット作もいくつもあるみたいだけど、定点観測として触る気すらしない。

オレはもともと、「ジャンプのマンガ」のアンケートだけが大事という編集方針とか、それに合わせた強引で量産品みたいな手触りが嫌いだったんだよね。というか、少年誌の世界って浅い感じで掘るのは一部の作品だけ、特にジャンプは縁がないという感じ。

ところがちょっと立ち戻ってみると、最近のジャンプの漫画がすごい。ジャンプだけが時代に合わせて進んでる感じがする。この調子だと、ジャンプ一強時代ってウェブマンガ・アプリマンガの時代になっても、というか、日本式のマンガが商業的に生産され続ける限り続くんじゃないですかね。

これって基本的には有能な新人の流入の「量」が確保できてることが大きいように思う。

マンガで金持ちになる = ジャンプでバリバリ

という世評を定着させたメリットは計り知れないということ。

ただなんというか…自動車産業もそうなんだけど、二番手以下がロクにチャレンジしないことをトップ走者がやる状態になってくると、業界自体の崩壊も近いような気がしてしまう。ここらへん、どうなんだろうか。

それにしても、どこを見てても楽しい時代である。

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