コロナ騒ぎでベーシックインカムがまただんだん注目を集めるようになってきた。
以前からベーシックインカム論者の山崎元さんも4/1に書いてるし:
コロナ経済対策が「ベーシックインカム的」であるべき理由 | 山崎元のマルチスコープ | ダイヤモンド・オンライン
最近の柏木亮二さんの記事もある(これは、そもそもベーシックインカムとは何よ、というイントロ解説として、なかなかいいと思う):
【COVID-19】「一律給付」と「ベーシック・インカム」:『みんなにお金を配ったら』|柏木亮二のDX Book Review | 野村総合研究所(NRI)t
ここで語られるべきは、なぜいまベーシックインカムなのか、ということだ。
オレの見立てを言わせてもらうと、コロナで起きてることも、AI化などイノベーションの高速な蓄積で起きることも、突き詰めれば「人類には制御できない強烈な力による社会習慣の破壊」なんだよね。
これが起きると惰性で続けてきたことが消滅し、自分にとって大事なことを考えざるを得なくなる。個人が、特にその習慣部分が大きく変われば、個人の集大成としての社会の価値観も大きく変わる。
コロナによる社会の変化すら、一定の部分は不可逆的だろう。二度と元には戻らない部分がたくさんある。
それでいて収入の見通しも社会状況への見通しも立たない状況である。社会の不安はどれほど高まっているだろうか。
不安が高まれば、人間のデフォルト行動の縮こまりが起きる。社会からダイナミズムが失われ、経済的には需要が最低限まで落ち込む。
コロナではこれがものすごく急激に起きたが、未来においては深く静かに進行する。対応は必須だが、いつまでも昭和風味の方策ばかりで、まったくうまくいってない。
現代の産業の大きな部分は「不要不急」であり、「必要不可欠」の割合は小さい。見栄と行きあたりばったりの消費が経済を支えているので、ダイナミズムが失われる影響は甚大だ。
経済はシステムであり、「必要不可欠」だけを維持しようとしてもそれは不可能だ。崩壊はどうにかして防がなければならないが、そこには元気で自由な消費が必要だ。影響は広く深く、生半可な給付ではこれを補うことはできない。
失われた需要を補うには、広範囲の、無差別の、膨大な給付が必要不可欠だ。
どうせ給付することになるんだから、この問題の本質をかなり解決できる、最良の施策としてベーシックインカムを推す。
これが「なぜいまベーシックインカムなのか」への答えだ。
ベーシックインカムは人間を愚かにしない
ベーシックインカムの本質は経済的見通しが立つこと、それにともない自由が得られること、そして給付が労働意欲や創造性を抑制しないことにある。
これはいまもっとも不足している「安心感」と「ダイナミズム」を、ちょうど補えるものになる。
この状況でベーシックインカムを考えるなら、押さえてほしいことがいくつかある。まずは経済的見通しが立ち自由を得られることによる作用だ:
- 収入不安が減って精神的安定が普及する
- 転職しやすくなるので抑圧的労働の需要が抑制される
- 転職しやすくなるので産業構造が変化しやすくなる
- 自分のやるべきことに向き合う余裕が生まれる
- 貯金の必要性を減らすため「不要不急」需要をサポートする
- 機会コストを可視化するため家事やコミュニティ維持など構造的に経済報酬の少ない仕事をサポートする
これらは総じて心が安定し、社会のダイナミズムが増えることだ。
そして給付が労働意欲を削がないことの作用である:
- 「働いたら負け」にならないのでチャンスを逃さない
- 転職や新分野への挑戦のハードルが下がる
- 他人の顔色をうかがう意味が減るので対象に集中する
これらは総じて変化への肯定感が高まることだ。不可避の変化をうまく活かすにはポジティブな態度が必要だが、ベーシックインカムならこの状況の中でそれを足せる。
「貧すれば鈍す」の言葉のとおり、困窮・縮こまりモードになった人間は、非常に愚かになる。貧乏人は愚かだから貧乏になったのではなく、貧乏だから愚かに振る舞わざるを得ないということだ。
よく言われるのは、貧乏だったら自炊すればいいのに、という話だ。スパゲティ1kgは200円くらいなので、これを3食ペペロンチーノにして食べれば1食あたり30円くらいになる。1日100円で過ごせばさすがに余裕が出るでしょ? という話。
ところがこれは不可能なのだ。学生時代から余裕のある一人暮らしで練習した人はすぐ思いつくんだけど、家で料理をする習慣のない、社会資本なしで育った人で、自炊を始められるほど思考に余裕のある人はほとんど居ない。
金持ちでも貧乏でも学歴のいかんに関わらず、人間なんてわりかし愚かなものである(何不自由なく育ち、何不自由なく暮らしている世襲政治家が恐ろしく愚かなことを見ても明らかだろう)。しかし「持てるもの」であれば、心の余裕によって現代文明の成果を利用しやすい。
ネットで検索すれば自炊入門も山ほどある。家計の見直しもアプリを使えばなんとかなりやすい。ちょっとした余裕があるだけで、いまは人間のデコボコを補ってくれるツールが山ほどあるのだ。生産性を上げるには、つまり、同じ労働で多くの成果を得るには、こうした助けは絶対に必要だろう。
ところが心に余裕のない人は、これらに手を出すだけの余裕すらない。
非常モードの人間は弱いものだ。「追い詰められれば実力が出る」という、よくある考え方は間違っていて、単に視野が狭くなるだけだ。
収入見通しと心の安定については、こんな研究もある:
深刻な精神疾患の患者に9ヶ月間毎月500SEK(スウェーデン・クローナ。当時のレートで6000円くらい)の可処分所得を給付しただけで、対象群に比べて不安やうつ症状が減り、人間関係も豊かになり、生活の質も向上したという。
やる気に関する驚きの科学
ここで、ちょっと無関係に見えるかもしれないけど、ダニエル・ピンクのTEDトーク、『やる気に関する驚きの科学』を見てほしい:
扱われているのは、報酬と問題解決の関係だ。
- 20世紀的な報酬、ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは、機能はするものの驚くほど狭い範囲の状況にしか合わない
- If Then式の(これをすればこれを貰えるタイプの)報酬は、時にクリエイティビティを損なってしまう
- 高いパフォーマンスの秘訣は報酬と罰ではなく、見えない内的な意欲にある。自分自身のためにやる、それが重要なことだからやる、といった意欲だ。
外的モチベーションは決められた作業を高速化するが、内的モチベーションを殺してしまうのだ。(まとめ部分を転載したが、この動画はおもしろいから見るべし。)
外的モチベーションで動くだけでは単なる労働力になってしまう。これを目指してはならない。必要なのは内的モチベーションの方だ。
そして内的モチベーションは生活の安定によりもたらされる。
ベーシックインカムは、これをサポートする。
先の見通しが立ち、落ち着いていること。
これは人間が人間としてうまく機能し続けるのに必要な条件だ。貧すれば鈍してしまい、何も生み出せなくなる。逆に安定して自由な人間の、ことに日本人のクリエイティビティは、異常なほどのレベルにあると思う。
ベーシックインカムの優れてるところは、変化のなかった旧石器時代に適応しちゃってる人間の脳を、変化し続ける現代の世界で全開にできることにある。
コロナの感染拡大を防ぐには広範な給付が必要だ。
ベーシックインカムは日本人にベストマッチである。
いまがチャンスなんじゃないですか。